SankeiBiz for mobile

新春インタビュー 「どーした どーした」作家 天童荒太さん、荒井良二さん(2-2)

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSのトレンド

新春インタビュー 「どーした どーした」作家 天童荒太さん、荒井良二さん(2-2)

更新

絵本「どーした_どーした」(天童荒太・文、荒井良二・絵/集英社、1575円、提供写真)  【本の話をしよう】

 ≪シリアスだから、どこかで救いを≫

 形で提示しなければ

 ――今回も、終盤に登場する荒井さんならではのある解釈が、作品の世界観をより豊かにしています。具体的には読んでからのお楽しみなのですが…

 荒井良二さん(以下荒井) あの絵を描いたのは、ある種の救いがほしいな、と思ったからです。子供の視線からすると、あのシーンではあの絵を見たいな、と思うはずだと。絵本を読むという体験は、どこかで救いにつながっていてほしい。

 天童荒太さん(以下天童) ああ、小説でも本当にそうです。基本的には読み手の想像力に託すものだけれど、一般の人の想像力には限界もあるから、あえて形として救いを提示しなければならないときがある。

 スピード感、リズム感

 ――物語そのものは全47ページ。絵本にしてはかなりのボリュームですが、リズミカルな文章と、絵の持つパワーであっという間に読了してしまいます

 荒井 ページ数は多いけれど、文章をいただいたときにすごく面白くて、「なんなく乗り切れるな」という確信がありました。絵としては、とにかくスピード感を意識しました。

 天童 僕なりに、絵本の基本は「リズム感」と「サプライズ感」だと思っています。なので、文章は意識的に繰り返しを多用しました。それに、荒井さんの絵は「次にどんな絵が来るんだろう?」というワクワク感がすごくあって、こちらの想像をはるかに超えた絵で、まず僕がサプライズ(笑)。ゼンの世界に豊かなカタチを与えてくださって本当に助けていただきました。

 荒井 僕も「絵本界のゼンくん」みたいな感じで周りにちょっと引かれている(笑)。そんな中で、自分の思っていることだとか、やりたいことだとか、すごく丁寧に受け取ってくれた。「荒井良二」という存在を天童さんに救っていただきました。

 天童 絵本は面白い、が基本だけど、あえて今回のような作品が絵本として来る、ということに社会としてサプライズしてほしい思いもある。絵本はこういうこともできるんだ、と提示したかった。絵本だからこその武器ってあると思うんです。絵本だったら、どこにでも存在できる。それこそ、歯医者さんの待合室にでも。そういった場所にある一冊が、この本だったら…。

 常に身の回りにミツくんがいるわけではないけれど、「どーした」という言葉を待っている人って、必ずいる。読んだ人がそれに気づき「どーした」と誰かに声をかけたとしたら、それだけでもこの絵本が存在する意味があるだろうと思っています。

 ≪衝撃! こういう絵本がほしかったんだ≫

 荒井良二さんの大ファンだったという天童荒太さん。最初にその魅力にはまったのが、『うそつきのつき』(内田麟太郎作、文溪堂)。何があっても笑わないおじさんに対し、次々に繰り出されるダジャレ-。

 「ヤマアラシがバーッと飛んでく姿を真下から描いてるんです。キタキター、こういう絵本がほしかったんだ!と衝撃を受けました」と天童さん。一方、荒井さんは「この絵本を出したとき、周りからは『ヤマアラシの足の裏なんて見たことあるのか』って突っ込まれちゃった。もちろん見たことないよ(笑)」と飄々(ひょうひょう)としたもの。絵本の自由さを堪能できる一冊だ。

 ≪重いテーマなのに受け入れられて…希望を感じた≫

 『どーした どーした』誕生のきっかけの一つとなった作品が、グロー・ダーレ作、スヴァイン・ニーフース絵『パパと怒り鬼』(ひさかたチャイルド、大島かおり・青木順子訳)。

 父親が暴力をふるうのは自分のせいだと思い込み、誰にも話さずに辛抱している男の子。ある日、王様に手紙を書くことで状況が変わり始める-。ドメスティックバイオレンス(DV)をテーマにしたノルウェーの絵本だ。

 天童さんは「社会的に重いテーマを扱っているにもかかわらず、世界中の読者に受け入れられている事実に希望を感じた」と話す。(構成・文:塩塚夢/撮影:大山実/SANKEI EXPRESS

 ■てんどう・あらた 1960年、愛媛県生まれ。86年『白の家族』で第13回野性時代新人文学賞受賞、93年『孤独の歌声』が第6回日本推理サスペンス大賞優秀作となる。96年『家族狩り』で第9回山本周五郎賞受賞、2000年『永遠の仔』で第53回日本推理作家協会賞(長編部門)受賞、09年『悼む人』で第140回直木賞、愛媛県文化・スポーツ賞、13年『歓喜の仔』で第67回毎日出版文化賞受賞。

 ■あらい・りょうじ 1956年、山形県生まれ。90年に処女作「MELODY」を発表。91年に、世界的な絵本の新人賞である「キーツ賞」に『ユックリとジョジョニ』を日本代表として出展。97年に『うそつきのつき』で第46回小学館児童出版文化賞、99年に『なぞなぞのたび』でボローニャ国際児童図書展特別賞、『森の絵本』で講談社出版文化賞絵本賞を受賞。2005年、スウェーデンの児童少年文学賞である「アストリッド・リンドグレーン記念文学賞」を受賞。「スキマの国のポルタ」で2006年文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞を受賞。

ランキング