ヘリマネーとは中央銀行がカネを刷ってヘリから民間に向かってばらまく、というフリードマン教授作の寓話(ぐうわ)に基づくが、要は財政資金を中央銀行が創出し、供給するので、トランプ案はその範疇(はんちゅう)に入る。
FRBは既存の金融政策の枠組みの下でドルを刷って市場に流通する米国債を大量に買い上げてきた。トランプ案はこの仕組みを応用して、FRBがドルを刷って国債という借金の返済に回すわけである。となると、政府は債務から解放されるばかりか、新たに発行した国債もFRBが発行するドルで元利払いが行われる。
「トランプ政権」が実際に発足すれば、米国政府は債務を増やさずに国債を発行し、中間所得層以下への減税財源とする政策が実行されかねない。白人中間・貧困層の救済をうたって喝采を浴びているトランプ候補にとってまさに、この上ない秘策となる。
トランプ流ヘリマネー政策で予想されるのは、外国の対米債権国の狙い撃ちだ。米市場で流通する米国債の発行残高は昨年末で11.2兆ドル(約1200兆円)に上る。そのうち6割近くの6.1兆ドルを外国当局・国際機関が保有する。国債は通常、税収を担保にしているから、おのずと財政規律を伴うので投資家に信用されるのだが、「紙幣輪転機を回してあなた方への借金を返す」と言われて「はいそうですか」と受け入れるお人よしがいるだろうか。トランプ氏は、ドルが世界の基軸通貨だから、たとえ無理難題を言おうと、世界の誰もが保有せざるを得ないと高をくくっているかもしれないが、傲慢すぎる。