ブルネッロ・クチネッリは急成長を遂げてきた。年間売上400億円以上の規模としては中堅企業であるが、エルメスと同等クラスのトップブランドの地位を築いている。(同社の経営哲学については、拙著『世界の伸びている中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』に詳しく書いた)
ピッコロ・テアトロの壇上にはブルネッロ・クチネッリ氏とソロメオ再生プロジェクトを共に行ってきた盟友が立った。そして、昔ながらの風景を甦らせる「美しさのためのプロジェクト」を発表したのである。広さにして約11ヘクタールのスペースだ。
子供たちがサッカーボールを追いかけるグランドが用意され、野菜などを育てる畑も生まれる。
ぼくが20数年前の横浜を想起したのは、言うまでもなく、こういうスペースの利用方法に感銘をうけたからではない。建造物を解体して自然に戻すのは世界の美しさへの責任であり、次の世代の人たちにより美しい風景を伝承するのが今日の自分の努めである、とのクチネッリ氏の考え方に「時が巡ってきた」と感じたからである。
特に、スクラップ・アンド・ビルドが文化的特徴となっている日本とは正反対に位置する、古くからの建物の伝統維持が優先されるイタリアにおいてこういう判断がなされたことに唸った。