日本のデザイナーがイタリアのデザイン事務所を訪れると驚く。
「モデルを作らないの?!」と。
三次元の模型で形状を確認しようとしないし、そもそも手を動かしながらカタチを作りこむ習慣があまりない。
ミラノでモデルやプロトタイプ(試作品)を製作する工房Wahhworksを経営するサムエル・セッラウが語る。
「50%のデザイナーがモデル製作はコストがかかり過ぎると言い、30%は役に立たないと考えているね。残り20%がモデルの重要さを理解し、ぼくのクライアントになってくれるんだ」
機械工学と工業デザインを勉強した彼自身、最初からモデル製作を重要だと認識していたわけではない。学校を終えた後、一年間半ほど韓国の自動車メーカーのインハウスデザイナーたちと一緒に仕事をした。その際、彼らがアイデアスケッチを描いては捨て、二次元でカタチを十分に整える前にモデル作りに取り掛かる姿をみてショックを受けた。もちろん衝突もおこった。
しかし、スケッチはアイデアの発火点に過ぎないと理解した彼は、「二次元の世界では必ず見落としがある。手を動かしながら考えるのは合理的だ」と気づいた。模型を作らなくても頭の中で三次元をイメージできると自負するイタリア人デザイナーが多いが、それは自信過剰だと判断したのだ。
セッラウは2008年、今の会社を設立した。直後リーマンショックが襲ったが、事業は堅調に伸びてきた。5年前、彼の目からみてミラノ市内に競合は15社あったが、現在は5社に絞られている。