原作はカフカの手紙などからネガティブ発言を集めた名言集だったが、本作ではカフカの人となりに焦点をあてた。「カフカって、私の周りにいる人にそっくりなんです。私の中にも、カフカっぽいところがありますし。例えば『いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです』という言葉があるのですが、私も現実から逃げたい気分になることがありますし。残された写真を見ても、私と同じように、おしゃれが大好きな人だったのだと思います。カフカとの共通項を見いだしながらの作業でした」
「速筆の自分には珍しく、何度も書き直した」というほど、こだわり抜いた。大胆に飛躍するコマ、デフォルメされたキャラクター、水玉のマスキングテープで彩られた背景…。「孤独で陰鬱」、そんなカフカに抱くイメージを、ある意味で踏襲し、ある意味では裏切る。「カフカの言葉自体がすごいので、そのまま絵にしただけでは面白くない。家具も、カフカの生きた時代は優美な曲線が特徴のアールヌーボーがトレンドですが、『カフカは弱音を吐いているわりには強い』と思い、直線的なアールデコ調にしたりと、自分なりの解釈を加えています。水玉を背景に入れたのも、デザイン的におしゃれにしたいという意図もありますが、本来意味のない部分に貼ることで、『見えないものが見える』というような、カフカのどこかゆがんだ世界観を表現したかった」