【本の話をしよう】
この世界のどこに救いがあるのか-。芥川賞を受賞した『聖水』、『爆心』と殺戮(さつりく)と戦争の歴史に挑んできた長崎市出身・在住の作家、青来有一さん。「一つの到達点」と語る最新作『人間のしわざ』で、人間の業と神のありかを、戦後70年に問うた。
「一つの到達点」
表題作「人間のしわざ」と「神のみわざ」の2編を収録。両作品とも物語の芯となるのは、紛争地帯の取材に半生をささげてきた戦場カメラマンの男だ。家庭を顧みず、「人間が崩れていくのを見たいという欲望がある」と、戦場の暴力と、死にカメラを向け続けてきた。妻を亡くし、今は引きこもりの息子と暮らす。表題作では、男は大学の同級生だった女と、ホテルであいびきをする。ベッドの上で男がうわごとのように語り出すのは、喉を打ち抜かれた戦士の最期、雪の日に行われた教皇の祈り、そして信仰のために焼かれ、黒焦げになった老人の姿だった-。