【本の話をしよう】
闇の中では何も見えない「烏目役」と、闇の中でしか物を見ることができない「水守」。決して互いの視線を交わすことができない二人が、死者の思いをともに汲(く)む-。
『ミツハの一族』は、作家、乾ルカさんの最新連作ミステリー。大正時代の北海道を舞台に、宿命を負った二人の若者を軸に、生と死を叙情豊かに描いた。
最初から「対」で
小安辺(こあんべ)は、信州から移住してきた人々が暮らす開拓村。だが、この村には信州時代から続く奇妙な因習があった。未練を残して死んだ者がいると、井戸の水が赤く濁り、死者は鬼となって水源に立つ。村にとって何よりも大事な水源を守るため、「烏目役」と「水守」が死者の未練を浄化し、あの世へと送らねばならないのだ。
「母方の祖母が岐阜から村ごと北海道に移住してきたんです。岐阜弁でしゃべるし、彼らは平家の末裔(まつえい)だと主張しているのですが、平家を祭る踊りが伝わっていたりする。移住を経ても伝わる伝統や歴史があるんじゃないかな」