今年8月、タンザニアを訪れた。そこに暮らす子供たちの生活を取材し、ドキュメンタリー形式で伝えるテレビ番組「世界の子どもの日常生活」を制作するためだ。タンザニアはアフリカ東部最大の国で、北側にはキリマンジャロ山がそびえ、東側はインド洋に面する、自然豊かな国だ。近年6~7%の高水準で経済成長しているものの、都市部と地方では貧富の差が激しく、1日1.25ドル未満で暮らす貧困状態にある人は国民の40%以上にものぼる。
首都ドドマの北、乾燥した大地が果てしなく広がる地域で、メアリーちゃん(10)という一人の女の子と出会った。おばあさんも、お母さんも、メアリーちゃんも、学校に通ったことがないという。
メアリーちゃんの話を聞いているとき、傍らにはずっと叔父さんがいた。この地域では、家長である男性に権威があり、女性や子供たちは男性の許可なく発言できない。メアリーちゃんも、遠慮がちで自由に思ったことが言えないように見えた。
これではメアリーちゃんの本当の気持ちが聞けないと思った私は、叔父さんに「どうか、メアリーちゃんが何を言っても止めたり、怒ったりしないでほしい」とお願いした。すると叔父さんは快諾してくれ、ようやくメアリーちゃんはその胸のうちを明かした。「本当は学校に行きたい」と。