「獣医さんが来てくれない」
頻繁に聞くその声に私たちは戸惑っていた。ここスリランカ北部のキリノッチでは、獣医は家畜生産衛生局に所属する公務員。地域住民の飼養する家畜に対する技術サービスを提供するのが仕事だ。なぜ彼らは必要な時に来てくれないのだろうか。
2009年5月、26年に及んだスリランカの内戦が終結した。内戦末期に激戦地となったキリノッチにも翌年から、避難していた住民(帰還民)が戻り始めた。しかし、故郷に戻ったからといって、すぐに元の生活ができるわけではない。家も町も田畑も破壊され、全てゼロからのスタートだ。
ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)は、内戦終結直後の09年6月から、ジャパン・プラットフォーム(JPF)の助成金を得て、3年半にわたり帰還民への生計回復支援などを行った。
生計回復のために農業を選んだ家族には給水ポンプ、縫製であればミシン、大工や石工であれば道具類というように、必要な資材を配布。家畜飼養を選んだ家族には、牛・ヤギ・鶏の中から希望する家畜を配布した。