昨年、奄美大島の南に位置する加計呂麻島(かけろまじま)にドラマの撮影で長期滞在した。1日あれば車で1周できる小さな島。海側の入り江のあちこちに30近い集落が点在する。この島の宝は、何といっても美しい自然だ。ライオン岩、青の洞窟など、目の覚めるような風景に心が洗われる。
とはいえ奄美地方は台風の常襲地域だ。家々は平屋が基本で、修繕しやすいトタン葺き。奄美大島と加計呂麻島を橋で結ぶ構想もあるが、台風被害を考えるとなかなか実現にこぎつけない。島内には大きな商店がなく、島に住む人たちはフェリーに乗って約20分の奄美大島へ買い物に出かける。台風が近づくとフェリーは欠航、ライフラインが途絶える。
古くは琉球王朝、薩摩藩の過酷な搾取を受け、サトウキビのみの生産を強制され、人々は山中に田畑を開いて命をつないだそうだ。ノロが神事の前に身体を清めたといわれる嘉入(かにゅう)の滝の上には、今でも隠し田んぼの跡が残されている。
加計呂麻島は奄美の隠れ場的存在であり、鹿児島でも沖縄でもない、独自の生態系と文化が育まれてきた。天然記念物、生物の固有種の宝庫であり、どの海岸に立っても、朝日と夕日の風景に魅せられる。一日のなかで、とりわけこうした時間を大切にしている僕にとって、加計呂麻島での滞在中は至福のひとときだった。