世を経(おさ)め、民を済(すく)う「経世済民」と、企業はお金もうけだけではないという強い信念が決断に踏み切らせた。
温かい賛同が後押し
元受刑者らを採用した当初、「お客さんが来なくなり、会社がつぶれるかも」(中井社長)という不安が脳裏をよぎり、「元受刑者ばっかり雇って」という批判もあったという。しかし「ようやった」「勇気ある」という、より強い賛同に励まされてきた。
これまでの約5年で9人を採用。途中でやめてしまう若者もいるが、5人が社員として頑張っている。また、アルバイトとして新たに3人が店頭で修行し、将来の社員昇格を目指している。
採用活動は社長自らが面接することが多い。中井社長は「いかにも罪を犯したという顔が、時間がたつとそうとは思えない顔つきに変わる」と成長を喜ぶ。社内恋愛の末、過去の犯罪を相手の両親に理解してもらい家庭を持つ人もいるという。
その一方で裏切りも。平成24年12月、主任に昇格したある社員が急きょ会社を辞めることになった。「レジの売上金を盗み、個人的に貸したお金がパチスロにつぎ込まれていた」(中井社長)という。しかし中井社長は電子メールなどで「人の情けにこたえろ」「金は返せ」と説得し、昨年9月から返金が始まった。
会社を辞める元受刑者らの大半は「昔の仲間とのつきあいが始まったからでは」と中井社長はみる。しかし千房に残って働く人に「過去を断ち切ろうと知人にも消息を知らせず、頑張っているものも多い」と希望を感じている。