関西のお好み焼きチェーン、千房(大阪市)が日本の社会に一石を投じている。刑務所や少年院で服役した元受刑者らを雇い始めたところ賛同企業が増え、昨年、日本財団の支援を受けた「職親(しょくしん)プロジェクト」という事業に発展した。被害者にとって犯罪は許せないものだが、中井政嗣社長は加害者側の元受刑者らに社会復帰の道を提供し、「経世済民」の精神で道を切り開こうとしている。
社会をよくする一石
元受刑者たちの雇用のきっかけは約5~6年前、山口県内の刑務所からあった就労支援の依頼だった。
社内からは「うちは人気商売。お客さんが怖がって、店に来なくなる」という反対意見も出た。中井社長は悩みに悩んだが、自身を「7人兄弟は成績が優秀だが、私は落ちこぼれやった」(中井社長)と振り返り、こんな確信を持った。
「人間には無限の可能性がある」
千房は昭和48(1973)年12月、大阪・千日前に第1号店を開業。ラジオ大阪の深夜番組「ぬかるみの世界」のスポンサーを務め、落語家の笑福亭鶴瓶さんが「君はぬかるみ焼きを食べたことがあるか?」などと広め、同社の知名度は一気に広まった。今や国内外に店舗網を広げる。
「いろんな人に目をかけてもらって、今がある」という思いが強い中井社長。刑務所や少年院を出所した後、再犯者が述べる理由の中で、「職に就くのが難しい」が多いと耳にした。
元受刑者らの採用は「企業として善悪を考えれば、善。社会に役立つ人間になってもらうことも償いの一つだ。再犯率を下げる社会貢献の意味でも、ぜひやってみたい」(中井社長)と思うようになった。