スマートフォンの普及にともない、画面を見ながら歩く「歩きスマホ」の危険性が叫ばれるようになった。周囲への注意が散漫になり、とりわけお年寄りや子供への気づきが遅れがちになるという。そのメカニズムについて、首都大学東京の樋口貴広准教授(認知科学)に聞いた。(戸谷真美)
「画面を見ながらの歩行は、『非注意性盲(もう)』と呼ばれる状態に陥りやすい」。樋口さんが指摘する非注意性盲とは、「見えているが認識できない」状態。脳が処理できる情報量には限界があり、一つのことに意識を向けると、それ以外の知覚情報に鈍感になるために起きる。
樋口さんの実験では、進路を妨げるようにスライドするドアを前方に設置した場合、通常の歩行であれば遅くとも1・5メートル程度手前でドアの動きに気づくが、ヘッドホンで音楽を聴きながらスマホの画面を見ていた場合は、ドアの直前まで気づかなかった。「大人の歩幅は通常70~80センチなので、本当にギリギリ手前まで気づかない状態。視野に入っていても、意識に上らないからです」