後継者不足に悩む中小企業がM&A(企業の合併・買収)で生き残りを目指す例が増えてきている。運用難の地方銀行が株式を買収するファンドへの出資者となり、影響力を増しているのも追い風だ。ただ肝心の経営者が「会社のもらい手がいない」と早計して諦める場合も多く、意識の問題が最大の課題となっている。
高度な技術力が個性
自動車や携帯電話の接続部品の組立機を手掛ける天竜精機(長野県駒ケ根市)は2014年、名古屋市のコンサルティング会社に株式の70%を売却した。社長には、営業に強い経験豊かな人材を外部からスカウトした。
前社長の芦部喜一さん(60)は娘や社員を後継者に据えることも考えたが、「莫大(ばくだい)な相続税を負担させられない」と、さまざまな手段を模索してきた。
扱っている分野が接続部品関連といった「すきま産業のため、買ってくれるところはないと思っていた」と振り返る。だが買い手には高度な技術力が「個性」と映った。新社長は海外にある日系企業との人脈が広く営業力を強化しながら、サービスの充実にも取り組み、業績は上り調子だ。
日本M&Aセンターが仲介した国内の中堅・中小企業のM&A件数は15年度に420件と3年前の2倍以上となった。社長の高齢化や後継者不在を理由とした案件がほとんどだという。