言語技術教育を取り入れた2012年は「つくば-」の資料を使い、翌年からは日本航空がパイロット向けに社内で改良したプログラムを使用している。その中身とはどのようなものか。「言語技術教育は広範囲にわたる科目がありますが、日本航空で導入しているのは『対話』『説明』『分析』の3科目です」(塚本機長)。では、3つの科目をそれぞれ詳しく見ていこう。
(1)対話
「対話」の講習では、効率的で濃密なコミュニケーションを取るために「問答ゲーム」というトレーニングを取り入れているという。2人1組で質問者と回答者に役割を分担し、テーマとなる問題を設定。会話を通して聞き手・話し手それぞれのスキルを磨くことが目的だ。問答ゲームで大事なのは、次の3つのポイントを守るということだ。
1.結論から言う
2.ナンバリングを用いる
3.総括する
設定問題が「あなたは飛行機が好きですか?」だったとしよう。回答者はまず「好き」か「嫌い」なのか、自身の結論から答える。次に意識するのが、その理由の数を数字で伝えるナンバリングだ。あらかじめ「理由は3つあります」などと答えることで、聞き手は予測ができて聞きやすくなり、話し手も理由をまとめるスキルを磨くことができる。最後に、背景や根拠を述べた上で、今までの話をパッケージとして総括する。
ルールを守って対話を
対話をするときに、以下の点にも注意することが大事だと塚本機長は語る。
(a)「回答者は、答えるときにあいまいな表現を排除することです。『飛行機がかっこいいから好き』という理由は非常に抽象的です。どんなところがかっこいいのか、具体的に伝えましょう」
(b)「逆に質問者は、回答者の主張や考えを理解するために色々と質問することが重要です。『シミュレーター訓練は、普段の運航では発生しないことを練習できるから好きなんです』-。この答えに『なるほどね』となりがちですが、普段の運航で発生しないこととは何なのか。エンジンフェイルや急減圧など、もっと具体的な答えを引き出すスキルが必要です」
(c)「相手の知識は問わないことです。知識を問い始めると2人の関係が気まずくなって、会話が弾みません」
(d)「聞き手は話し手の答えに反論してはいけません。質問者の目的は、相手の考えを聞き出すことです。反論すると話し手は言いづらい雰囲気になってしまい、結局理由は聞けずじまいに…となるかもしれません」
以上のルールを踏まえて、互いの役割を変えながらゲームを行い、対話技術の向上を図っているそうだ。