大空を飛ぶパイロットの主な仕事は、飛行機を安全に運航して乗客や貨物を目的地まで運ぶことだ。フライトをはじめ、日々の業務で必要とされる技術や知識は山ほどある。あまり注目されていないかもしれないが、コミュニケーション能力も大切なスキルのひとつだ。日本航空ではその技術を磨くために、2012年から「言語技術教育」を導入しているという。それは一体どんな手法を用いたプログラムなのか。訓練に取り入れる会社側の狙いとは-。講師を務める2人の機長に話を聞いた。(文・カメラ 大竹信生)
短い時間の中で効率的なコミュニケーションを
乗客の命を預かるパイロットは知識や仕事に対する姿勢のほか、大別して3つの技術が必要とされる。飛行機を操縦する「テクニカルスキル」、規定通りに飛行操作を行う「プロシージャスキル」、そして、コミュニケーションや判断能力といった「ノンテクニカルスキル」だ。
パイロットは様々な場面でコミュニケーションを取る。まず搭乗前に整備士やキャビンクルーとブリーフィングを行い、これから飛ばす機材や航路の情報を交換する。フライト中は機長と副操縦士の間でこまめに会話を交わし、キャビンクルーとも機内電話でやり取りを行う。無線を通じて管制塔や地上スタッフとも交信する必要がある。飛行機を安全に飛ばすには、限られた時間の中で効率的に質の高いコミュニケーションを交わす能力が必須なのだ。日本航空のパイロットは、これらノンテクニカルスキルを身につけるために、言語技術を学んでいる。今回、講師を務める日本航空の塚本裕司氏と田嶋雅彦氏に話を伺った。
言語技術教育について塚本機長はこう話す。「もともと世界各国で行われている母語教育のひとつ、ランゲージ・アーツを基に『つくば言語技術教育研究所』が日本人向けに開発したものです。コミュニケーションは一般的に“聞いて話す”の繰り返しですが、ランゲージ・アーツは“聞く・話す”の間にある『考える』を大切にする学問です。自身の考えを論理的に組み立て、相手にわかりやすく伝える力を養う教育です」。