こうした起業家的なプレーヤーの振る舞いは、事象が生じる確率の分布のベースに働きかけようとするものであり、壺の中身の推定のために、試行を重ねてデータを蓄積し、予測の精度を高めていこうとする科学的な取り組みを無効化してしまう。しかし、マーケティングにおいては、このような野性的な振る舞いが不可能ではないとともに、しばしば生じる。
先の鈴木氏の著作を読むと、実はセブン-イレブンも、科学的なリサーチを高度に活用する一方で、それにとらわれない展開を見すえていることに気づく。たとえばセブン-イレブンの店舗では、陳列棚に広いフェースをとれば単品で500枚も売れる魚フライを、人気があるから売れるだろうと、陳列幅を減らすと、100枚も売れなかったりするという。これは、マーケティング・リサーチがとらえようとしている顧客の特定の心理や行動(ex.陳列棚から魚フライを買うという行動)が生じる確率の分布は、法則のように定まっているわけではなく、企業の取り組み(ex.魚フライの陳列幅の設定)しだいで、あっさりと塗りかえられてしまうことがあるということである。小売りの店頭というのは、この手の駆け引きの現場でもあるのだ。