『「本質直感」のすすめ。』という、一風変わったマーケティング理論書が今年の春に出版された。そのなかで、首都大学東京の水越康介氏が、興味深い問題提起を行っている。水越氏は、科学化するマーケティング・リサーチの現場を踏まえたうえで、次のような趣旨の指摘を行っている。
「優れた経営者であるほど、マーケティング・リサーチを必要としないように見える」
水越氏が真っ先に取りあげているのは、この半世紀ほどの間に、世界のエレクトロニクス業界の秩序をつくり替えてきた2人の経営者である。一人は、盛田昭夫氏、もう一人はスティーブ・ジョブズ氏。彼らは、歴史に名を残すであろう優れた経営者であると同時に、「マーケティング・リサーチをしない」と公言してきた人物でもある。
水越氏の問題提起に共感する人は少なくないだろう。だが一方で、科学としてのマーケティング・リサーチの高度化が、企業の成長と収益性の強化を支えていることも見逃してはならない。収益性の高い経営モデルを確立しているセブン-イレブン。その「売り逃さない」店舗運営は、神戸大学の小川進氏によって詳細に描き出されている(『競争的共創論』白桃書房)。