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対北、アメとムチの難しさ

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSの政治

対北、アメとムチの難しさ

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北朝鮮に対する制裁の一部解除について会見する菅義偉(すが・よしひで)官房長官=2014年7月3日、首相官邸(酒巻俊介撮影)  【安倍政権考】

 政府が7月4日、日本人拉致問題解決に向け、北朝鮮への独自制裁の一部解除を閣議決定した。北朝鮮の支配下にある在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)はホッと胸をなでおろしている。実は総連はこれまで水面下で経済制裁解除を目指し、日朝交渉が進展するよう政界工作を必死に展開してきた。5月24、25両日に東京朝鮮文化会館(東京都北区)で開いた総連の「第23回全体大会」では、与野党の政治家を招いて友好ムードを演出してみせた。このとき、拉致被害者の帰国を強く求めたり促したりする議員の発言は一切なく、総連の周到な対外工作を印象付けた。

 友好関係アピール

 関係者によると、全体大会には与野党5人の国会議員が来賓として出席した。大会は、総連の幹部人事や活動予算を決める最高意思決定機関で、2004年の第20回大会では、小泉純一郎首相(当時)の自民党総裁としてのあいさつが代読された。

 今回の大会では与党から自民党の馳浩(はせ・ひろし)衆院議員が党五輪・パラリンピック東京大会実施本部長として出席し、「在日朝鮮人の皆さまが朝鮮の国家代表として東京五輪に参加することを願う」と発言した。さらに、公明党の遠山清彦(とおやま・きよひこ)衆院議員は「日本で生まれ、暮らすあらゆる世代と連携したい」と意欲を示した。

 馳氏は産経新聞社の取材に対し、自身の発言について「国家や国交といった問題と五輪は関係ない」と主張。遠山氏は「安倍晋三首相が対朝関係で成果を上げつつあるだけに、敵対一辺倒ではいけない」と発言意図を説明した。

 また、野党では8月に平壌でプロレス大会を計画する日本(にっぽん)維新の会のアントニオ猪木参院議員が「皆さまと困難に立ち向かい、平和を実現したい」と発言。社民党の又市征治(またいち・せいじ)幹事長も「皆さまとは深い友好関係を維持してきた。高校授業料無償化法案の朝鮮高級学校への適用をめぐり共闘した」と、友好関係をことさら強調してみせた。

 また、日朝国交正常化推進議員連盟会長を務める自民党の衛藤征士郎(えとう・せいしろう)前衆院副議長は「許宗萬(ホ・ジョンマン、朝鮮総連)議長をはじめ、各位のご健康とご多幸を心から祈念する」とするメッセージを寄せた。

 唯一、民主党の大野元裕(もとひろ)参院議員が拉致問題について、「解決を含めた諸問題が、対話によって解決されることを願う」と言及しただけ。いずれの議員発言でも拉致被害者の帰国を強く求める「圧力」は鳴りを潜め、友好関係をアピールする「対話」姿勢だけが際立った。

 制裁解除に不快感

 一方で、「圧力」よりも「対話」だけが先行しかねない状況に危機感を示すのが、民間団体「特定失踪者問題調査会」だ。荒木和博代表は3日、北朝鮮に対する制裁を解除することについて、「北朝鮮は何度も約束を破ってきた。拉致被害者帰国の結果は出ていない。制裁解除は極めて遺憾だ」と声を荒らげた。

 また、菅義偉(すが・よしひで)官房長官が3日の記者会見で、一部で報じられた日本人の生存者リストの存在を否定していることから、「リストがないなら、特別調査委員会の設置だけで制裁を解除したことになる」と不快感も示した。

 日朝交渉では北朝鮮から結果を引き出すために「対話と圧力」のバランスが何よりも重要となる。安倍首相は北朝鮮に対し、アメとムチを慎重に判断して使い分けているとみられるが、外務省が中心の交渉過程全てが国民に開示されているわけではなく、周囲がやきもきする日々は当分続きそうだ。(比護義則/SANKEI EXPRESS

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