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北の拉致譲歩、見返りに「核」狙う

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北の拉致譲歩、見返りに「核」狙う

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 【佐藤優の地球を斬る】

 すべての日本人拉致被害者の再調査で合意した北朝鮮が、日本との関係改善に動き出した背景には、国内的、国際的な要因がある。

 国内的には、張成沢元国防副委員長の粛清だ。「拉致問題をはじめとする悪事は、朝鮮労働党と国防委員会に根を張っていた、反革命、反党の張成沢一味によるものだ」という口実で、金正恩体制に災いが及ばない形で、「日本人問題」を処理できる可能性が生じたことだ。

 中朝悪化と米の軟化

 国際的要因は、2つある。

 第1は、北朝鮮と中国の関係が急速に悪化していることだ。これは、張氏の粛清とも緊密に関係してくる。張氏は、中国との戦略的提携を強化して、北朝鮮経済を立て直すことを考えていた。確かに、金正日体制の後期から、中朝関係は強化されていた。しかし、この2国の国力には開きがありすぎる。このまま北朝鮮の中国に対する依存度が強まれば、安全保障問題でも中国が北朝鮮に干渉することが可能になる。具体的には、「北朝鮮の安全保障は、中国の核が担保する。それだから、北朝鮮は核兵器を廃棄せよ」と中国が北朝鮮に圧力をかけてくる可能性が排除できない。

 金正恩第1書記が張氏を粛清した背景には、中国の影響が核問題に波及することを除去するという要因があったと筆者は見ている。

 第2は、米国のイランに対する姿勢が軟化していることだ。米国は2年前まで、イランが現在行っている20%のウラン濃縮の線を踏み越えて、原爆作成に可能な90%のウラン濃縮に進むならば、それを力でたたき潰すという姿勢を示していた。

 しかし、昨年(2013年)、自国民に対して毒ガスを使用したシリアのアサド政権に対して、米国のオバマ大統領は、力による制裁を一旦、公言したにもかかわらず、ロシアの外交攻勢を受けて断念せざるを得なくなった。その結果、アサド体制が維持されることになった。この出来事で中東における米国の影響力低下が可視化された。

 イランは、この機会にウラン濃縮を5%まで低下させる代わりに、「平和利用」の核開発の承認を米国から事実上取りつけることに成功した。

 狙いは日米分断図る

 こうした状況を踏まえ、北朝鮮は、拉致問題を含む「日本人問題」を解決すれば、日本の対北朝鮮外交が抜本的に変化するとみている。安倍政権は、拉致問題と比較して核廃絶については、それほど強く要求してこないので、北朝鮮は核兵器と弾道ミサイルの不拡散にコミットすれば、核保有は黙認されることになると計算している。

 6月5日、ベルギーのブリュッセルで採択されたG7(先進7カ国)サミットの首脳声明では、北朝鮮についてこう述べられている。<我々は、北朝鮮の核及び弾道ミサイル開発の継続を強く非難する。我々は、北朝鮮に対し、全ての核兵器並びに既存の核及び弾道ミサイル計画を放棄し、また、関連する国連安保理決議の下での義務及び2005年9月の六者会合共同声明の下での約束を完全に遵守するよう要請する。我々は、国際社会に対し、国連制裁の完全な履行を求める。我々は、国連調査委員会の報告書に記載された北朝鮮における現在進行中の組織的、広範かつ深刻な人権侵害について重ねて深刻な懸念を表明し、北朝鮮に対し、拉致問題を含め、これらの侵害に対処するため速やかな措置をとるとともに、関連する全ての国連機関に完全に協力することを要請する。我々は、北朝鮮の深刻な人権侵害に対する説明責任の確保を促進するため引き続き協働する>

 北朝鮮は、大量破壊兵器(核、弾道ミサイルなど)と人権問題を切り離すことに腐心すると筆者は見ている。拉致問題を含む人権問題で大幅な譲歩をすることによって、核保有を認めさせるという戦略で、日米間の分断を図ってくると思う。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS

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