【佐藤優の地球を斬る】
すべての日本人拉致被害者の再調査で合意した北朝鮮が、日本との関係改善に動き出した背景には、国内的、国際的な要因がある。
国内的には、張成沢元国防副委員長の粛清だ。「拉致問題をはじめとする悪事は、朝鮮労働党と国防委員会に根を張っていた、反革命、反党の張成沢一味によるものだ」という口実で、金正恩体制に災いが及ばない形で、「日本人問題」を処理できる可能性が生じたことだ。
中朝悪化と米の軟化
国際的要因は、2つある。
第1は、北朝鮮と中国の関係が急速に悪化していることだ。これは、張氏の粛清とも緊密に関係してくる。張氏は、中国との戦略的提携を強化して、北朝鮮経済を立て直すことを考えていた。確かに、金正日体制の後期から、中朝関係は強化されていた。しかし、この2国の国力には開きがありすぎる。このまま北朝鮮の中国に対する依存度が強まれば、安全保障問題でも中国が北朝鮮に干渉することが可能になる。具体的には、「北朝鮮の安全保障は、中国の核が担保する。それだから、北朝鮮は核兵器を廃棄せよ」と中国が北朝鮮に圧力をかけてくる可能性が排除できない。