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【集団的自衛権】悲願の改憲射程 解釈変更は次善策

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【集団的自衛権】悲願の改憲射程 解釈変更は次善策

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安保法制整備に関する与党協議報告会に臨む安倍晋三(しんぞう)首相と、公明党の山口那津男(なつお)代表(右手前から3人目)=2014年7月1日、首相官邸(酒巻俊介撮影)  7月1日に政府が決定した集団的自衛権の行使容認は、安倍晋三首相にとって最重要課題の一つだった。この日午後、官邸に招いた公明党の山口那津男(なつお)代表に万感の思いを伝えた。

 「自民党と公明党は、長年の風雪に耐え、意見の異なる課題でも国家、国民のため大きな結果を残してきた。与党とともに法整備をしていきたい」

 官邸前の交差点では、行使容認に反対する団体が、拡声器でシュプレヒコールを上げ続けた。

 「安倍は辞めろ、安倍は辞めろ」

 1960(昭和35)年、祖父の岸信介(のぶすけ)首相(当時)が日米安全保障条約を改定した際も、反対する大規模なデモ隊が国会周辺を取り囲んだ。

 「(米国への)『巻き込まれ論』が反対の主流だった。しかし、50年たってどうか。安保改定で抑止力は高まり、日本の平和は守られてきた。巻き込まれ論は大きな間違いだった」

 首相は先の通常国会の衆院予算委員会でこう語るなど、祖父の決断を引き合いに、どんな批判を受けても集団的自衛権の行使容認を引っ込めなかった。

 首相は、公明党に配慮して、昨年(2013年)中の決着を先送りした。「安全保障法制整備に関する与党協議会」は5月20日に開始。案の定、公明党は具体的事例から議論することを求めるなど当初は「遅延戦術」で抵抗した。首相は「いつまでも協議をやっても仕方がない」と、公明党へのいらだちを強めることもあった。

 自衛隊と米軍の役割を定める「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」再改定が年末に控え、国内法整備を急ぎたい。中国が軍事力を増強する中、日米関係を強固にしておきたいとの思いも強めていた。

 そんな安倍首相を支え続けたのは、与党協議会の座長を務めた自民党の高村(こうむら)正彦副総裁だった。

 「与党協議会は解散しない。暫時休憩だ」。高村氏は1日の与党協議でこう宣言し、残された集団安全保障措置などの課題について協議を継続する道筋を残した。

 弁護士である高村氏は、1959年の砂川事件の最高裁判決や72年の自衛権に関する政府見解を引き出して、公明党との交渉に臨んだ。パートナーとなった公明党の北側(きたがわ)一雄副代表も弁護士。高村氏は法律論で自民党と公明党との隙間を埋めていった。また、首相の集団的自衛権への強い意志は連立維持にこだわる公明党を軟化させ、当初は堂々と「反対」と表明していた山口代表も最後は折れた。

 もっとも、集団的自衛権の行使容認は限定的な範囲にとどまった。高村氏は与党協議を「暫時休憩」と宣言し、記者団には「憲法9条2項がある限り、これ以上のことをやるには憲法改正が必要だ」と述べた。

 現行憲法では限界があることは、首相も十分承知している。多国籍軍などの集団安全保障措置での武力行使の参加も今回は早々に自ら封印した。

 本来目指すべきは憲法改正だ。しかし、戦力不保持と国の交戦権否認を明記した憲法9条の改正を公明党が絶対に受け入れるはずがなく、他の改憲政党を足しても、参院では国会発議に必要な3分の2以上の勢力に及ばない。憲法解釈変更は次善策でしかない。

 首相は当面、閣議決定を受けて関連法の整備を急ぐ。その上で、祖父も届かなかった自民党の党是、憲法改正を射程に入れる。

 ≪蚊帳の外の野党 足並みそろわず≫

 集団的自衛権の行使容認の閣議決定に至る過程で「蚊帳の外」だった野党は7月1日、民主党などが街頭に飛び出し、反対を訴えた。だが、野党内でも集団的自衛権の行使容認への賛否はバラバラ。民主党の海江田万里(かいえだ・ばんり)代表が主導した街頭演説に応じたのも4党だけだった。

 各党は14、15両日に予定される国会閉会中審査で閣議決定に関する質疑を行うが、巨大与党を前に早くも足並みの乱れを露呈した。

 「国民の命を危うくする安倍首相の暴挙だ!」

 海江田氏は1日夕、東京・有楽町の街頭演説でこう声を張り、集団的自衛権の行使を容認する閣議決定への反対を訴えた。

 民主党は当初、全野党そろい踏みを画策した。だが、行使を容認するみんなの党は拒否した。行使容認反対の共産党さえ「民主党の立場が明白でない」と参加せず、野党結集をもくろんだ民主党の求心力の欠如が浮き彫りとなった。

 日本(にっぽん)維新の会の分党後に橋下(はしもと)徹大阪市長らと新党をつくる松野頼久国会議員団代表は「政府の説明不足は明らかだ」と批判。海江田氏らとの街頭演説にも参加し、「閣議決定は乱暴だ」と訴えた。「橋下新党」と合流する結いの党の江田憲司代表も「与党だけの密室の協議で決めるのは言語道断だ」と同調した。

 ただ、松野氏は行使容認の見解維持を強調、江田氏は「行使不要論」を展開し、両者のズレは合流を前になお解消されていない。

 維新分党後に新党「次世代の党」を結成する平沼赳夫(たけお)暫定代表は「政府と同じ考えなので法整備でも国会で協力する」と明言した。

 ≪中国懸念「平和発展の道変えた」≫

 中国外務省の洪磊(こう・らい)報道官は7月1日の定例記者会見で、集団的自衛権の行使を容認する日本政府の憲法解釈の変更について、「日本が戦後、長期にわたって堅持してきた平和発展の道を変えるのではないか、との疑問を持たざるを得ない」と懸念を表明した。

 国営中央テレビ(CCTV)などの官製メディアは、日本の集団的自衛権の問題と、尖閣諸島(沖縄県石垣市)をめぐる中国との対立や、靖国神社参拝などの歴史認識問題とを結びつけ、「安倍晋三政権は中国と対抗するため、再び軍国主義への道を歩もうとしている」などと批判した。(北京 矢板明夫/SANKEI EXPRESS

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