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集団的自衛権で「政府の基本的方向性」 安倍首相、行使容認へ強い決意

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集団的自衛権で「政府の基本的方向性」 安倍首相、行使容認へ強い決意

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 安倍晋三首相(59)は5月15日、官邸で記者会見を開き、集団的自衛権行使を巡る政府の有識者会議「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」の報告書提出を受けて「政府の基本的方向性」を示した。報告書が限定的な集団的自衛権の行使を容認すると提言したことに関し「今後さらに研究する。解釈変更が必要と判断されれば、改正すべき法制の基本的方向を閣議決定する。準備ができ次第、法案を提出したい」と述べた。

 憲法解釈見直し示す

 首相は、安全保障環境の現状認識について「東シナ海では(中国による)領海侵入が相次ぎ、北朝鮮のミサイルは日本の大部分を射程に入れ、核開発を続けている」と指摘した。

 その上で、周辺有事の際に邦人や米国人を輸送する米艦を防護するケースをパネルを用いて例示し、「米国の船を自衛隊は守れないのが現在の憲法解釈だ。日本人を助けることができないでいいのか」と訴えた。

 また、国連平和維持活動(PKO)の他国部隊が武装勢力に襲われた際の自衛隊による「駆け付け警護」もパネルで示し、検討事項に挙げた。さらに、武力攻撃に至らない「グレーゾーン事態」への対処能力強化に向けて法整備を急ぐ方針を示した。

 首相は今後、日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の年末までの再改定をにらみ、与党協議を経て解釈見直しの閣議決定を急ぐ構えだ。ただ、公明党が行使容認に慎重な姿勢を示しているため、首相は「期限ありきではない」と改めて強調した。行使容認を争点にした衆院解散・総選挙の実施は否定した。

 多国籍軍に参加せず

 一方、法制懇が軍事措置を伴う国連の集団安全保障への参加について「憲法上の制約はない」と提言したことに対し、首相は「採用できない。自衛隊が武力行使を目的として、湾岸戦争やイラク戦争での戦闘に参加することはこれからも決してない」と述べた。

 首相は会見に先立ち、国家安全保障会議(NSC)を開き、基本的方向性を確認。報告書は集団的自衛権と集団安全保障、グレーゾーン事態について新たに6事例を列記した。

 ≪中国が警戒、韓国も反発≫

 中国外務省の華春瑩(か・しゅんえい)報道官は5月15日の定例記者会見で、安倍晋三首相が集団的自衛権の行使容認を柱とする報告書の提出を受けたことについて「歴史的要因もあり、日本の軍事領域での動向が地域の安全環境に影響するのは必至だ。中国を含むアジアと国際社会は、日本の真の狙いに対して強く警戒している」と述べ、警戒心をあらわにした。

 韓国外務省報道官は15日の定例記者会見で「朝鮮半島と韓国の国益に関わることは、韓国の同意なしには実現できない」との立場を示した。これに先立ち、韓国国防省報道官も15日、記者会見で「朝鮮半島の安全保障や韓国の国益に影響を及ぼす場合、韓国の要請なくしては(集団的自衛権の行使を)受け入れられない」と述べた。(北京 川越一、ソウル 名村隆寛/SANKEI EXPRESS

 ■集団的自衛権 密接な関係にある同盟国などが武力攻撃を受けた場合、自国が直接攻撃されていなくても自国への攻撃と見なして実力で阻止する権利。国連憲章51条は、自国への侵害を排除する個別的自衛権とともに主権国固有の権利として認めた。政府は1981(昭和56)年の答弁書で「わが国が国際法上、集団的自衛権を有していることは当然」と保有を明記。行使については、憲法9条の下で許容される「必要最小限度の自衛権行使」の範囲を超えると解釈して「憲法上、許されない」と禁じ、歴代内閣が公式見解として継承してきた。

 【安保理法制懇報告書のポイント】

 ■集団的自衛権

・憲法9条は、わが国が当事国である国際紛争解決のための武力の行使を禁じている。自衛のための武力の行使は禁じていない

・「必要最小限度」の自衛措置には集団的自衛権の行使も含む

・要件は「密接な関係のある国に武力攻撃」「わが国の安全に重大な影響」「当該国からの明示的な支援要請」など

 ■軍事措置を伴う国連の集団安全保障

・わが国が当事国である国際紛争ではない。武力の行使に当たらず、憲法上の制約はない

 【首相会見のポイント】

・従来の憲法解釈でも可能な立法措置を検討。「グレーゾン事態」への対処を強化。PKOや後方支援など国際社会の平和と安定に一層貢献

・「(軍事措置を伴う)集団安全保障措置への参加」に関する提言は、これまでの憲法解釈と整合しないので不採用

・「限定的な集団的自衛権行使容認」は必要最小限度の「武力の行使」は許容されることから、さらに研究

・憲法解釈の変更は政府で検討。与党協議で必要と判断されれば、改正すべき法制度の基本的方向性を閣議決定

 【「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」メンバー】

柳井俊二 元駐米大使(座長)

北岡伸一 国際大学長(座長代理)

岩閒陽子 政策研究大学院大教授

岡崎久彦 元駐タイ大使

葛西敬之 JR東海名誉会長

坂元一哉 大阪大大学院教授

佐瀬昌盛 防衛大学校名誉教授

佐藤 謙 元防衛事務次官

田中明彦 国際協力機構(JICA)理事長

中西 寛 京大大学院教授

西  修 駒沢大名誉教授

西元徹也 元統合幕僚会議議長

細谷雄一 慶応大教授

村瀬信也 上智大教授

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