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ブラジルの憂鬱 W杯「人質」にデモ 敗退なら「暴動」

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ブラジルの憂鬱 W杯「人質」にデモ 敗退なら「暴動」

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開幕戦が行われるサンパウロ・アリーナ前では太鼓を打ち鳴らして盛り上がるブラジルのサポーターたち。母国が勝ち続ければいいが…=2014年6月11日、ブラジル(吉沢良太撮影)  サッカー・ワールドカップ(W杯)ブラジル大会が6月12日午後(日本時間13日未明)開幕。昨年(2013年)6月のコンフェデレーションズカップ開催時と同様、大会を「人質」にして福祉や教育の充実を求める抗議デモが計画されており、順調に大会が実施できるか予断を許さない。一時は高度成長で「新興国の雄」ともてはやされ、2年後に五輪を控えるブラジルだが、治安やインフラの改善が進まず、国民の不満は大きい。

 「要求を通すなら今」

 街は緑と黄色のナショナルカラーに包まれ、国旗が無数にはためく。壁には代表選手の似顔絵や競技場の絵が描かれた。その絵の上に「W杯はやめよう」と黒ペンキの文字。公金の無駄遣いや政治家の汚職を批判するスローガンも多い。

 デモを呼び掛ける過激派や、公務員のストライキを主導する労働組合幹部は「政府は今、恥をさらすわけにはいかない。要求を通すなら今しかない」と口をそろえる。

 「抗議活動は民主主義国家の証しだ」。ルセフ大統領は、軍事政権時代の左翼ゲリラ闘士出身で投獄や拷問を受けた経験があり、平和的なデモは認めるが、暴力は許さないという立場。開幕前日の11日も「デモの権利は誰にもあるが、野蛮行為は認めない」と批判勢力を牽制(けんせい)し、笑顔で「一緒にチャンピオンを目指そう」と呼び掛けた。

 再選困難な大統領

 最近の経済低迷で、ルセフ氏の支持率は下落。最新の世論調査では10月の大統領選でルセフ氏に投票すると答えた国民は34%で、大会運営の成否にもよるが、ルセフ氏の再選は困難な状況だ。

 開幕戦があるサンパウロの競技場。各国サポーターが記念撮影をし、多数の警官が周辺を固める。大会ボランティアの地元女性(26)は「(大統領選で)ルセフ氏には投票しない。準備の遅れとデモやストで世界に恥をさらした。『顔』を代えないと、恥ずかしくて五輪開催なんてできない」と話した。

 W杯に投じられた公費は110億ドル(約1兆1000億円)に上るが、空港や会場への交通網の整備は完了していない。宿不足も深刻で、野宿を決めた観戦客も多い。殺人発生率の高い世界50都市にブラジルの15都市が入り、うちW杯開催都市が8都市もある。観戦客は強盗被害などの危険にさらされる。

 「五輪なんて無理」

 公立病院は医師や設備が足りず、予約は数カ月待ち。公立学校も不足しており、2部制が当たり前で「W杯の代わりに医療、教育を」という国民の声は強い。

 各大陸の王者が対戦する昨年のコンフェデ杯期間中は、W杯準備に費やす巨額の公費を福祉に回すよう求めるデモが各地で激化。一時、参加者は100万人以上に膨らんだ。しかしブラジルが勝ち進むと応援ムードが広がってデモは縮小、ブラジルの優勝で沈静化した。W杯でもブラジルが勝ち続けるかどうかが社会情勢を左右しそうだ。

 「途中敗退したら、不満と怒りの矛先が政府に向かうのは間違いない」。40年前、極貧の北東部から職を求めスラム街に移った塗装工の男性(56)が語る。「デモが大荒れになり、スラムでは暴動が起きる。そうなったら五輪なんて絶対無理だ」と顔をしかめた。(共同/SANKEI EXPRESS

 ≪開幕の地にサポーター集結≫

 開幕戦が行われるサンパウロ・アリーナの周辺には前日の6月11日から、地元ブラジルのサポーターらが続々と集結し、一気に熱気に包まれた。

 アリーナでは通路にセメントを敷く工事がいまだに続いていた。ブラジルのユニホームや国旗、帽子などを売る露天商が軒を並べ、開幕戦でブラジルと対戦するクロアチア、予選リーグで日本と戦うコロンビア、メキシコのサポーターらも、大声で「優勝」「勝つぞ」と連呼していた。

 前日までは、通常と変わらない様子だった市中心部のセントロ(旧市街)地区にも応援グッズや国旗を並べた露店が並んだ。ブラジル代表のTシャツを買った20代女性は「優勝する」と自信満々に語った。市役所前ではデモ参加者とサポーターが入り乱れ、笛の音や叫び声がこだました。(サンパウロ 中村将/SANKEI EXPRESS

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