SankeiBiz for mobile

愛しのラテンアメリカ(7)メキシコ 麻薬、貧困、差別…ゆがんだ常識

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSの国際

愛しのラテンアメリカ(7)メキシコ 麻薬、貧困、差別…ゆがんだ常識

更新

土産物屋が軒を連ねるマーケットで新聞を読む店員の女性=メキシコ・首都メキシコシ市(緑川真実さん撮影)  キューバに1カ月滞在したあとに訪れるメキシコは、小さな衝撃の連続だった。

 キューバでは子供はみんな元気に学校に通っていた。そんな島から、粗末で破れた服を着た小学校低学年くらいの少年が、大人の靴を磨いている土地へ。

 ここでは貧しい子供たちは、当然のごとく働いていた。公共の場所に張ってある信じられないほどの人数の「行方不明者」の写真には、さっき道ばたですれ違ったような、ごく一般の女性や子供の顔も並ぶ。メキシコ人の友人は「外見では判断できないけど、何らかの形で麻薬カルテルに関わっている人が多い」と教えてくれた。新聞で、麻薬に関連した事件の残虐な写真を見るたびに、メキシコの現実を思い知らされた。

 そして、先住民と、白人の子孫、そして混血の人々が、法律上は同じ権利を持つ国民であるにもかかわらず、人々の意識を支配している「人種差別」。メキシコ全土にはびこるゆがんだ常識に、違和感を覚えずにはいられなかった。

 だから、メキシコ人は不満だらけだ。差別、貧困、政治への不信。話し始めるときりがない。そして、彼らの渦巻く不満が爆発したデモに、首都のメキシコ市で遭遇した。

 ≪「すぐに殺される」 閉塞感が国を覆う≫

 2012年12月1日、エンリケ・ペニャニエト大統領の就任式の日、メキシコ各地で反対デモが行われた。首都では大人や若者らが大通りを行進し、一部の若者は銀行やショッピングセンターなどの建物を襲撃した。中心部の店舗はシャッターを閉め、武装した警察官が道を封鎖し、街は物々しい雰囲気に包まれていた。

 若者らは、時には警官隊ともみ合いになりながら、ペニャニエト大統領がメキシコ州知事時代に行った政策や政府の貧困対策、不正が行われた大統領選への抗議や再選の要求などを口々に訴え、大統領の名前と「暗殺者」を意味する単語をシュプレヒコールしていた。若者らが大声を張り上げ、真剣に抗議する姿から、メキシコ政治の深い闇と彼らの失望感を感じる。

 デモが収まった後は、現地の2人のカメラマン、ホルヘとロベルトとともに夕食に行き、お互いに撮った写真を見せ合いながら、メキシコの国内事情に話が及んだ。彼らによるとデモは日常茶飯事で、ペニャニエト氏が大統領に選出されたときは、もっと大規模なデモが行われたという。

 彼らから聞こえてくる言葉は、国への絶望そのもの。クリっと大きな目をした優しそうなホルヘは、大学を卒業しても将来は保証されておらず、より良い生活のためでなく、生きるためにアメリカ行きを選択する人もいる、と明かす。つい数日前にキューバで聞いた話と、よく似ている。「テレビをつければいつも暴力ばかりで、悲しくなる」と祖国の現状に心を痛め、「この国には不正と汚職があふれている」と肩を落とす。

 こんなに不満を抱いている人が大勢いるなら「アラブの春」しかり、「メキシコの春」を起こす動きは生まれないのか。するとロベルトが、そんな私の思いを察したのか、「反乱の芽が出ようものなら、すぐにリーダーが殺される。本当にすぐに殺されるんだって」。彼の真剣な眼差しから、メキシコ中を覆う閉塞(へいそく)感が見えた気がした。(写真・文:フリーカメラマン 緑川真実(まなみ)/SANKEI EXPRESS

 ■みどりかわ・まなみ 1979年、東京都生まれ。フリーカメラマン。高校時代南米ボリビアに留学、ギリシャ国立アテネ大学マスメディア学部卒業。2004年のアテネ夏季五輪では共同通信社アテネ支局に勤務。07年、産経新聞社写真報道局入社。12年に退社後、1年半かけて世界ほぼ一周の旅。その様子を産経フォト(ヤーサスブログ)とFBページ「MANAMI NO PHOTO」でも発信中。好きな写真集は写真家、細江英公氏の鎌鼬(かまいたち)。

ランキング