ニュースカテゴリ:EX CONTENTSエンタメ
【鋤田正義 meets 黒木渚】私の生活は音楽に支配されている
更新
バンド「黒木渚」(当時)のギターボーカル、黒木渚さん=2013年8月29日、東京都渋谷区(鋤田正義さん撮影) 初めて曲を書いたのは19歳の時。大学に入ってからだ。それは突然変異のように湧きあがってきた衝動だった。人から借りたギターが部屋に置いてあったけれど、当時の私が知っているコードは2つしか無かった。EマイナーとAアッドナインス。なぜこの2つだったのかはいまもよく分からないが、とにかく私は19歳のある夜、曲を作った。タイトルはあっただろうか? それもよく覚えていないけれど、確かビリヤードのことを歌っていたと思う。「世の中の嫌なことが全部、ビリヤードみたいに穴の中に落ちればいいのに」と。
私は知ってしまったのだ。生活のなかにあるややこしい感情も、作品にしてしまえばなぜか納得できてしまうということを。19歳、大学生というまさにモラトリアムな状況の私には、分からないことがたくさんあった。恋愛のこと、将来のこと、人間のこと、当時のめりこんで研究していた文学のこと。不可解な感情に出会う度に、私は曲を書くようになった。それは世界を知るための手掛かりでもあったし、自分自身を知るための手掛かりでもあった。
曲を吐き出しながらどんどん成長して、私はいつの間にか大人になった。心底大好きだった文学を追いかけて大学院に進学もしたし、就職活動をして市役所の職員にもなった。だけど、最終的に私のところに残ったものは音楽だった。予想外だったとしか言いようがない。まさか自分が音楽家として生活しているなんて、19歳の私は考えてもみなかった。まっとうに生きてきたつもりだったけれど、最後の最後で私は直感に従って行動したのだった。一生安定して暮らせたはずなのに、それを捨てて東京へやってきた。
それでも私は幸せだ。音楽の奴隷として生きている自分が好きだ。朝から晩まで、目に入るもの全てを歌詞に置き換えようとしてしまう。曲を作るためにいろいろな場所へ出かける。本を読むことも、雨の音を聞くことも、映画を見ることも、おいしい食事を取ることも、大嫌いな病院へ行くことも、全部歌のためなのだ。時々それが苦しくなる。私は純粋なマゾヒストにはなれないのだろう。だけど、そんな思いは1本のライブで完全に吹き飛んでしまう。
生活の全てを音楽にささげるなんてばからしいと、どこかで冷静な自分が言っていても、たった1時間のライブで私は満足してしまう。ばかで結構、こんなに最高の1時間がもらえるのならば。ステージの私は全てを回収しようとする。音楽のために犠牲にしているもの。そして全てを解放しようとする。音楽でなくては発散できないものを。体の隅々から声を絞り出して、今ここで息絶えても良いとさえ思いながら歌う。そしてステージの上から素直に伝えるのだ。
「最高すぎて苦しいね」(音楽アーティスト 黒木渚/SANKEI EXPRESS)
■鋤田正義 RETROSPECTIVE SOUND & VISION <会期>5月3日(土)~7月6日(日)。<会場>舞鶴赤れんがパーク5号棟。<住所>京都府舞鶴市字北吸1039の2。<入場料>一般300円(税込み)
■黒木渚 ONEMAN LIVE TOUR「革命がえし」 5月2日(金)札幌 cube garden。5月4日(日)大阪 AKASO。5月5日(月祝)名古屋E.L.L.。5月10日(土)Zepp Fukuoka。5月16日(金)仙台darwin。6月1日(日)渋谷公会堂