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【鋤田正義 meets 黒木渚】身にまとっているもの、それは
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バンド「黒木渚」のギターボーカル、黒木渚さん=2013年7月22日(鋤田正義さん撮影) エアブラシから吹き付けられるインクが、私の体に次々と文字を浮かびあがらせる。メークルームに設置されたベッドに横たわり、少しずつ肌が歌詞で覆われていくのを見ていた。今日の撮影でのメーン衣装はこれだ。
鋤田(すきた)正義さんとのフォトセッションは、小さなキッカケが巡り巡って訪れた思いがけない幸運だった。
デビッド・ボウイ、忌野清志郎(いまわの・きよしろう)、布袋寅泰(ほてい・ともやす)など数多くの有名ロックミュージシャンの撮影で知られる世界的カメラマンの鋤田さん。ロック好きの人間ならばなおさら彼の作品に触れる機会は多いはずだ。
かたや、今回のフォトセッションで被写体を務める私、黒木渚は昨年12月にデビューしたばかりの新人ミュージシャン。作詞作曲も行っている私の作品は、鋤田さんいわく「大胆」なのだそう。
そんな私が突然手にしたフォトセッションの機会。作品を作り出す立場だった私が、今回は鋤田さんの作品に作り出されるというのは、初めて味わう不思議な感覚だ。巨匠と呼ばれるカメラマンの前で、被写体として何を表現するのか。
撮影の数日前、打ち合わせで衣装の話が出た。「渚さんの好きなものを」と鋤田さんは穏やかに言った。その夜、眠りに就くまでずっと考えていた。「音楽家、黒木渚が身にまとっているものはなんだろう?」。翌日の朝、目覚めた時にその問いの答えは出ていた。
「言葉だ」
それは、私が一番執着してきたものであり、私の本質を表すもの、そしていつだって私の肌に宿っているものだ。そうと決まれば早速言葉を選ばなくては。自分の作品の中から、特に身につけたいものを選ぶ。まるでとっておきのドレスを選ぶように。
そして撮影当日、私は上半身に言葉をまとってスタジオに入った。両手にも、肩にも胸にも歌詞が書かれている。背骨の上には、自作の『骨』という楽曲にちなんで『私を通る強い直線』という歌詞を入れてもらった。鋤田さんはそんな私の姿を見ると、「どうぞよろしく」とほほ笑んだ。ああ、少年の目だ。
話すたびに感じていたことだが、鋤田さんの目は少年のままなのだ。カメラが好きだという純粋な気持ち、撮るという行為に今でもワクワクし続けている人なんだとすぐに気付いた。
そして撮影が始まると、彼はカメラになってしまう。少年の目は、レンズと重なってひとつになり、鋤田正義という人間を超えて、もはやカメラそのものになってしまった。そこに人が居るということを全く感じないほどだ。気配が消え、スタジオは私だけの空間になる。だから自分と向き合うしかないのだ。どんどん感情が沸き上がり、いつの間にか本気で歌っていた。撮られていることも忘れて、言葉まみれの私は全てを吐き出した。
撮影が終わり、たかぶってまだ息も整わない私はカメラの前で放心していた。すると、カメラの向こうで小さくつぶやく声が聞こえた。
「僕、感動しちゃった」
それはカメラを愛する少年の声であり、巨匠と呼ばれる写真家から私へ贈られた最高の言葉だった。(文:バンド「黒木渚」のギターボーカル 黒木渚/撮影:写真家 鋤田正義/SANKEI EXPRESS)
大阪・心斎橋BIGSTEP(2014年2月2日まで)
2013年12月28日(土)COUNTDOWN JAPAN 13/14(幕張メッセ国際展示場イベントホール)。2014年6月1日(日)渋谷公会堂ワンマンライブ