初めて曲を書いたのは19歳の時。大学に入ってからだ。それは突然変異のように湧きあがってきた衝動だった。人から借りたギターが部屋に置いてあったけれど、当時の私が知っているコードは2つしか無かった。EマイナーとAアッドナインス。なぜこの2つだったのかはいまもよく分からないが、とにかく私は19歳のある夜、曲を作った。タイトルはあっただろうか? それもよく覚えていないけれど、確かビリヤードのことを歌っていたと思う。「世の中の嫌なことが全部、ビリヤードみたいに穴の中に落ちればいいのに」と。
19歳の夜に…
私は知ってしまったのだ。生活のなかにあるややこしい感情も、作品にしてしまえばなぜか納得できてしまうということを。19歳、大学生というまさにモラトリアムな状況の私には、分からないことがたくさんあった。恋愛のこと、将来のこと、人間のこと、当時のめりこんで研究していた文学のこと。不可解な感情に出会う度に、私は曲を書くようになった。それは世界を知るための手掛かりでもあったし、自分自身を知るための手掛かりでもあった。