レコーディングが始まった。これまで黒木渚というバンドで活動していた私だが、今年から黒木渚というソロのミュージシャンとして再始動することを決意した。ひとりで音楽をやると決めてから最初の作品だ。活動名義は変わらずとも、私にとっては今作がターニングポイントであり、今後の音楽活動を左右する重要なレコーディングだと思っている。これまでよりも濃厚な黒木渚の世界をお客さんにぶつけていかなければ。強い意志に導かれ前に進もうとする私ではあったが、それとは同時にうまく消化できない複雑な思いがあったことも認めざるを得ない。しかし、私には作ることしかできないのだ。ただ黙々と自分の中に湧きあがる「何か」を形にし続けることしか生きる方法を知らないのだから。
11人の女性を歌う
フルアルバムとなる今作に、私は「女」というコンセプトを設けた。収録される11曲の歌は、全て女のことを歌っている。アルバムには標本箱というタイトルを付け、そこに11人の女たちを収めようと思った。それぞれの女がそれぞれの人生を生きている。幸せな女もいれば、狂気に満ちた女もいる。彼女たちをつなぐ共通点は「女」であり、黒木渚から生まれたという点だ。バラバラなようでいて、彼女たちは確実に私の中に存在していたのだ。11人の愛(いと)しい分身たち。