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【鋤田正義 meets 黒木渚】恋する少女は「かわいらしいんだね」
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バンド「黒木渚」のギターボーカル、黒木渚さん=2014年1月30日(鋤田正義さん撮影) レコーディングが始まった。これまで黒木渚というバンドで活動していた私だが、今年から黒木渚というソロのミュージシャンとして再始動することを決意した。ひとりで音楽をやると決めてから最初の作品だ。活動名義は変わらずとも、私にとっては今作がターニングポイントであり、今後の音楽活動を左右する重要なレコーディングだと思っている。これまでよりも濃厚な黒木渚の世界をお客さんにぶつけていかなければ。強い意志に導かれ前に進もうとする私ではあったが、それとは同時にうまく消化できない複雑な思いがあったことも認めざるを得ない。しかし、私には作ることしかできないのだ。ただ黙々と自分の中に湧きあがる「何か」を形にし続けることしか生きる方法を知らないのだから。
フルアルバムとなる今作に、私は「女」というコンセプトを設けた。収録される11曲の歌は、全て女のことを歌っている。アルバムには標本箱というタイトルを付け、そこに11人の女たちを収めようと思った。それぞれの女がそれぞれの人生を生きている。幸せな女もいれば、狂気に満ちた女もいる。彼女たちをつなぐ共通点は「女」であり、黒木渚から生まれたという点だ。バラバラなようでいて、彼女たちは確実に私の中に存在していたのだ。11人の愛(いと)しい分身たち。
9人目の女を歌った「窓」という曲の歌入れに鋤田さんが訪れた。窓に登場するのは初恋に焦がれる少女だ。2階の右から3番目の窓を見上げ、そこに暮らす青年へのひそかな恋心を歌う。録音ブースにマイクを立て、それを挟んで鋤田さんと向かい合う形でレコーディングが始まった。歌入れの時に、同じブースの中に人が居るという経験は初めてだったが、鋤田さんなので全く心配いらないなと思った。撮影が始まると、鋤田さんはカメラそのものになってしまうことを知っていたから。歌い出すと同時に、鋤田さんの気配がすっと消えた。そして私は恋する少女になる。言葉を交わしたことも、体に触れたこともない青年に思いを寄せ、彼が暮らす部屋の窓を見上げて思うのだ。あの部屋に射(さ)しこむ西日になりたい、と。やわらかく彼に寄り添って、その体をあたためてあげるのに。包み込むようなギターとバイオリンの音に導かれ、声帯よりももっともっと深い場所から声が出てくる。あの窓に届け。あの人に届け。
歌い終わると、鋤田さんも再び気配を現し、踏み台にしていた椅子から降りてきた。「全然違う。前撮った時と表情が別人みたいだったよ。この歌の時は本当にかわいらしい表情をするんだね」。確かに、以前フォトセッションで撮っていただいた時、私はBGMにとてもシリアスな曲を選んで歌っていたので、「かわいらしい」とはかけ離れた表情をしていただろう。それでも、なんだかうれしいのと恥ずかしいのが織り交ざったような気持ちになって、照れてしまったのだった。(文:バンド「黒木渚」のギターボーカル 黒木渚/撮影:写真家 鋤田(すきた)正義/SANKEI EXPRESS)
■ライブ 6月1日(日)渋谷公会堂ワンマンライブ