ものすごくやりやすい
――共演はドラマ「私立探偵濱マイク」(2002年)以来?
小泉 あの時はロケバスでちらっと一緒になった程度で。ちゃんとお仕事するのは初めて。
阿部 小泉さん、本当に後輩に優しいんです。若い俳優さんに的確な助言をされたり。昨日も食事会のあと電車が終わって帰れなくなったテンちゃん(中国人歌手役の桜木テン)を自宅に泊めてたし。俺もそんなふうになろっと。
小泉 (照れたように笑って)岩松さんのおっしゃることが本当に分かっているかな、と思ったとき(若い俳優に)「こうなのかもね」って言うことはあります。阿部さんは、相手役の次のセリフ、次の動きをわかってくれて、ものすごくやりやすい。そりゃ、ひっぱりだこでしょうよ、って。
――演じるのは、港町のクラブの歌手ジーナと、流れ者のヤクザ森本という役ですね。
小泉 任侠の男たちが群れて生きる現実の世界に夢を持ち込んでいるのがジーナ。夢は一時的に人を幸せにするけれど、それは長く続かないっていう悲しさ(の象徴)なんだよね、きっと。
阿部 「群れ」というタイトルだけど、森本もジーナも、任侠の人たちの群れには入れない、群れなくてもいい人間。群れを客観的に見つめている。
小泉 結局、人はみんな一人で独特なんだけれど、その世界では群れて生き、(群れの)中で動かなければいけない。裏切ったり、裏切られたりもあり、流れ者も来る。そんな任侠の世界を岩松さんは描きたかったんでしょうね。
台本読むのが面白い
――岩松さんは説明的なせりふを排し、淡々とした言葉で心の機微を描く作風。演じ手から見た岩松作品の魅力とは?
小泉 独特の文学って感じがします。好きか嫌いかについて触れていい文学。劇中、部屋にテレビを置かない森本に、ノブ(赤堀雅秋)が「気になってしょうがねえ。テレビを見ねえってことは、もうなんか考えているってこったろ」みたいに言うシーンひとつとっても、かっこいいよね。岩松さんならではのこだわりや、日常的にふと気になったことが織り交ぜられていて、面白い。ほかの人の稽古を見ながら、笑うのをこらえたりしています。
阿部 台本を読むのが面白くて。けれど演じるのは難しいんです。あんまり意味がないようなセリフでも、どこか意味が含まれているんじゃないか、って考え過ぎてしまうことも。台本の“ハラ”を探りながらやっています。
小泉 岩松さんは感情については一切、おっしゃらない。「手をここに、こう挙げて」「3歩、歩いて」みたいなことだけ(笑)。でも、不思議とそうすると感情がついてくる。
阿部 全然、そっちのほうが面白くなるんです。言われた通りにすると面白くなる。あれ、すごい不思議。
小泉 「やめて」っていうセリフを言うとき、やめて、っていう動機を探しちゃうけれど、ただ言っちゃえばいいときのほうが多いですね。岩松さんの「手を上にこう挙げて」は、役者がそのとき、頭の中で組み立てようとしたものを忘れさせるためなのかな、って気がします。
度胸がつきました
――舞台ならではの面白さ、得るものは何ですか?
小泉 昔、映画やテレビの現場で舞台や小劇場の人と一緒になると、演技のアプローチがとても面白く、子供心にワクワクしました。舞台ってプロしか立てないってつくづく思う。そこに立つようになり、私は度胸がつきましたね。
――えっ? 「度胸」ですか?
小泉 歌手の度胸とは全然、別。だって人前で演技をするって、ヘンだし、恥ずかしいことじゃない。
阿部 うん、うん(とうなずく)。いや、恥ずかしいっすよ。歌だと客席向いて歌えますけれど、セリフをこう(客席のほうを)向いて言うって…。
小泉 恥ずかしいって思っている人ばっかりが演劇をやっているんだと思いますよ。それを振り切る。その度胸。前は(演技を)小さいところから始めて、演出家の方に「もっと大きく」と促されていたのが、今は大きいほうからやってみるようになりました。
阿部 舞台で演じる面白さは本番にお客さんがいて、反応がすぐ返ってくること、ずっと見られている緊張感かな。そして舞台を見る楽しさは、いろいろ想像をふくらませる自由があるってこと。(何を思っても)間違いなんてない。
小泉 今回の舞台、かっこいいですよ、みんな。いいなあ、男って、って思いますよ、きっと。ふふふ。(文:津川綾子/撮影:瀧誠四郎/SANKEI EXPRESS)
■こいずみ・きょうこ 1966年、神奈川県出身。82年「私の16才」で歌手デビュー。その後、女優としてテレビ、映画、舞台の数々に出演。今年放送の朝の連続テレビ小説「あまちゃん」(NHK)では挿入歌を披露した。岩松了作品の出演は「シブヤから遠く離れて」(2004年)、「恋する妊婦」(08年)に続き3作目。
■あべ・さだを 1970年、千葉県出身。92年から大人計画に参加、看板俳優に。テレビ、映画でも活躍し、2007年に初主演した「舞妓Haaaan!!!」では日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。「シダの群れ」シリーズは第1弾(10年)に続く2度目の出演。
■岩松了(いわまつ・りょう) 1952年、長崎県出身。劇作家、演出家、俳優。劇作家・演出家として舞台の数々を手がけ、日常のささやかな出来事や淡々とした会話の中からでも独特の物語を紡ぎ出す。89年「蒲団と達磨」で岸田國士戯曲賞、98年「テレビ・デイズ」で読売文学賞。俳優としても映画や舞台に出演している。
【ガイド】
11月6~30日 Bunkamuraシアターコクーン(東京)。Bunkamura(電)03・3477・3244。12月6~15日 シアターBRAVA!(大阪)。キョードーインフォメーション(電)06・7732・8888。12月21~23日 北九州芸術劇場大ホール(福岡)。キョードー西日本インフォメーション(電)092・714・0159