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劇を見て優しい気持ちになれれば 舞台「イーハトーボの劇列車」 大和田美帆さんインタビュー

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劇を見て優しい気持ちになれれば 舞台「イーハトーボの劇列車」 大和田美帆さんインタビュー

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 しんと研ぎ澄まされた美しい言葉で、詩や物語の数々を生んだ宮沢賢治の後半生を描いた、井上ひさしの戯曲「イーハトーボの劇列車」(鵜山仁演出)が、14年ぶりに再演されている。出身地の東北の人々や自然を温かく見つめ続けた賢治と井上。2人のまなざしが重なり合う舞台で、大和田美帆(30)が、賢治の一番の理解者で、夭逝した2歳違いの妹とし子(本名・トシ)を演じている。

 初演は1980年。井上が描いたのは、「人々が明るく生きるように」と理想に突き進むものの、食うや食わずの農民にエスペラント語を広げたりして、世間からは理解されずに生涯を終えた賢治(井上芳雄)だ。とし子は兄の行く末を案じ、ただ一人、優しいまなざしを向け続けた。「物静かなとし子はせりふも少なく、最初はとらえどころがないと感じました。けれど賢いがゆえに悩み、賢治同様に生きづらさを抱えていた。そんな一面をいとおしく感じました」。唯一の理解者の死から4年後、賢治は教師を辞め、ますます理想の実現へと突き進んだ。

 思いやれる世界

 「イーハトーボの劇列車」は、賢治が幾度となく通った東京と、その道行きの夜行列車が舞台。列車はあの世とこの世をつなぐ「銀河鉄道」を思わせ、車掌は死にゆく人々から、心残りを託した「思い残し切符」を預かり、生きている人々へと届けていく。劇中には、オノマトペ(擬音語)をはじめとする美しい言葉があふれ、童話の登場人物を想起させるキャラクターが出てくるなど、井上の賢治への愛情が伝わってくる。「(東京など都会に)理由もなく憧れ、ひたすらぺこぺこ頭をさげ、中央のおっしゃることはすべて正しい、と決め込んでいた考え方が次第に姿を消すはず」「デクノボーたちの思いが三代四代と伝えられていくうちに何かが変わる」。賢治のせりふの数々は、賢治の夢や希望を観客に託す、井上の「思い残し切符」でもある。

 大和田にとっては、物語の終盤、農民が託す「広場があれば」という「思い残し切符」が印象的だったようだ。「広場とは、想像できる場所、相手を思いやることができている世界のことだと思います。最近、スマートフォンの画面に見入って、すぐ横に立つ高齢者に気づかない人を見ることがあります。人々の想像力はますます欠けてきているんじゃないでしょうか」

 “切符”を受け取った、現代に生きる大和田はどう応えるのだろう。「まずは自分から広場を作ろうと思うんです。私にとっては劇場が広場。演劇を見た人が誰かを思い、優しい気持ちになれるといいですね」。理想を追い求めた兄を支えたとし子が重なった。(文:津川綾子/撮影:荻窪佳(けい)/SANKEI EXPRESS

 ■おおわだ・みほ 1983年、東京都出身。日大芸術学部に在学中の2003年、ミュージカル「PURE LOVE」(小池修一郎演出)でデビュー。以降、舞台を中心にドラマ・CM・バラエティーなど幅広く活躍中。最近の出演作は、舞台「三谷版 桜の園」や「浮標」、ドラマはNHK「実験刑事トトリ2」など。来年1月31日~2月16日まで、ミュージカル「フル・モンティ」に出演が決まっている。

 【ガイド】

 11月17日まで、紀伊國屋サザンシアター(東京)。こまつ座 (電)03・3862・5941。11月23、24日、兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール。劇場 (電)0798・68・0255。11月28日、岩手県民会館大ホール。こまつ座 (電)03・3862・5941。11月30日、12月1日、川西町フレンドリープラザ(山形)。劇場(電)0238・46・3311

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