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際立つ個性を魅力に変える 東京・世田谷 パクチーハウス東京
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第一印象は最悪。でも、知れば知るほど、あれ…好きかも。人でも食べ物でも、際立つ個性が魅力に転じたとたん、心を奪われてしまうことがある。
香りと味にひとクセあるセリ科のハーブ、パクチーも好き嫌いが分かれる個性派食材のひとつだ。その個性を生かして全ての料理に取り入れるのがパクチー料理専門店「パクチーハウス東京」(東京都世田谷区)。2007年の開店以来、じわじわと評判が広がり、今やテーブル席は予約が絶えないパクチー好きの聖地となっている。
メニューは約40種。週40キロのパクチーを使い、デザートにまでパクチーが入る。「すべての料理にパクチーを入れるなんて狂ってる、と言われました(笑)」と店を運営する「旅と平和」の佐谷恭社長(38)。その一方、実はパクチーはすごい、ともいう。
佐谷さんによると、パクチーは世界110カ国ほどで食されるグローバルな食材。社名の通り、無類の旅好きな佐谷さんは世界中の食堂でパクチーに出合った。日本でも江戸時代にすしの薬味に使われていたという記録もあるとか。「とても可能性を秘めた食材。パクチー料理のジャンルを広げたい」と思い至った。
人気の一皿を聞くと、まず「ヤンパク」(Sサイズ935円)の名があがった。「中国の東北部を旅して食べた家庭料理をアレンジしました」(佐谷さん)。皿一面に生のパクチーが敷き詰められ、その上に炒めたラム肉が盛られる。
ラム肉は乾燥パクチーの粉末と塩を合わせたオリジナル「パク塩」とコショウ、パクチーの種を合わせたシンプルな味付けで、好みでレモンを絞る。ラム肉とパクチーの香り対決。どちらに軍配が…と、食べてみるとお互いがくさみを打ち消し、香りは残す、絶妙な組み合わせ。かむたびにラム肉は甘くなり、生のパクチーならではのパンチの効いたフレッシュな香りも広がる。病みつきになりそう。
だが、パクチーの味の奥深さを物語ったのは「パク天」(829円)と、「パク塩アイス」(420円)だ。
まず「パク天」を食べ、パクチーには甘みもあるのだと気づく。厚さ7センチほどの天ぷらに「ザクッ」と箸を入れ、ひと口。サクサクとした歯触りとポテトチップスに似た香ばしさのあと、火を通したパクチーの甘みと、まろやかになったあの香りがやってきた。一方、クリーミーなアイスにパク塩と刻んだ生パクチーを混ぜた「パク塩アイス」は、濃厚なミルク味に、パクチーがさっぱりした清涼感をプラス。パクチーの味の引き出しの多彩さを、初めて知った。
でも、この店で知るのはそれだけではない。食卓は大きく、見知らぬ客どうしが相席して知り合い、交流が始まるような空間になっている。「店で友達になり、アジア料理の食べ歩きに出たり、会社を作った人たちもいます。個室化が進む日本の飲食店はつまらないですよ」。取材した2月、店の壁には「カンボジアに映画館を作ろう!」と活動する客が張った、カンボジアの暮らしを伝える写真が数々あった。「この写真を持ち込んだお客さんには、できるだけ店に来てください、と言いました。もし壁の写真に他のお客さんが興味をもったら、カンボジアの今を、直接、語って伝えてほしいから」。パクチーの味だけでなく、この店の雰囲気にも、病みつきになりそうだ。(津川綾子、写真も/SANKEI EXPRESS)
パクチーハウス東京
東京都世田谷区経堂1の25の18 2階 (電)03・6310・0355。午後6時~午後11時(ラストオーダーは午後10時)。店内はテーブル席のほか、立ち飲みスペースも。テーブル席がいい人は予約がおすすめ。