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甘ダレが放つ照りと芳醇な香り 横浜 「割烹蒲焼わかな」

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甘ダレが放つ照りと芳醇な香り 横浜 「割烹蒲焼わかな」

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三河のウナギと茨城産コシヒカリを使用し、丹精込めて仕上げた「うな丼」(2625円)=神奈川県横浜市中区(伴龍二撮影)  【食を楽しむ】

 横浜スタジアム、中華街、人気歌手「ゆず」をはぐくんだ商店街「イセザキモール」…。新旧の人気スポットがひしめく横浜市のJR関内駅周辺には、味自慢の老舗も数多く軒を連ねている。なかでも通をうならせる名店といえば、1872(明治5)年創業のウナギ店「割烹蒲焼わかな」(5代目・橋本進社長)が挙げられるだろう。

 前身は菓子店

 「意外かもしれませんよ」。店を訪ねると、若旦那の橋本隆専務(42)が創業の由来をユーモアたっぷりに教えてくれた。わかなの“前身”は実は江戸時代から続く銘菓店「亀の子煎餅・若菜屋」で、参勤交代の折、国表(くにおもて)で待つ奥方へのお土産を買う諸国の大名たちに利用されていたのだという。

 後にウナギ店わかなを立ち上げることになる初代・吉蔵は、そんな由緒正しい菓子店の長男として生まれたが、元来の遊び人で、煎餅屋を嫌い、家を継がなかった。しかし、ある日、賭け事に負けてお金に困った2人のウナギ職人と知り合い面倒をみることに。恩を感じた2人は吉蔵にこう切り出した。「一生懸命働きますから、ウナギ屋を始めては?」。思いがけない提案を受け入れたのがわかな創業のスタートだった。

 運ばれてきたうな丼からは、湯気が立ち上り、かば焼きから焼きたての芳醇な香りが豊かに漂ってくる。たっぷりと塗られた特製の甘いタレが放つ照りがまた食欲をそそる。口に運んでみると、ウナギはふんわりと軟らかく、すぐに溶けてしまうかのような食感が広がった。それを下から支えるコシヒカリを使ったご飯もタレをしっかりと受け止め熱々だった。

 えんま帳から推計

 橋本専務が店の特徴に挙げたのは「作り置きしないウナギを炊きたてのご飯とともに提供する」というものだった。「私たちはウナギを裂き始めてからちょうど30分後にご飯を炊き始めます。ご飯が炊けるまでの時間と、ウナギに串を刺し、焼き、出来上がるまでの時間はいずれも30分。それぞれの出来上がりが一緒になり、ほかほかの状態でお客さんに出せるのです」

 とはいうものの、実際には、お客さんがテーブルについてから15分もすれば、出来たてのかば焼きが提供される。これはなぜだろう。橋本専務は「うちの職人たちはテーブルに出す40分前からすでに仕込みをスタートしているんですよ」と教えてくれた。

 どの程度のお客さんが入店するかの見通しについては、「えんま帳」がものを言うという。「店では毎日、天気、温度、時間別のお客さんの数といったデータをきちんと記録してきましたので、大体の予想はつきます。だから『100人のお客さんが来る』とみたら、職人たちは時計を逆算してあらかじめ100匹のウナギを裂き始めるのです」

 伝統の味を維持するために橋本専務は毎日、うな丼を食べることを欠かさないそうだ。「食材については『どこどこのものを使っているから大丈夫』というのがありません。毎日同じことをやっていると惰性に陥ってしまい、いつも通りやっているから大丈夫だろうという油断も生まれてしまう。米の水分量の加減ひとつで炊きあがりが違ってきますから、毎日、毎日が勝負なんです」(文:高橋天地(たかくに)/撮影:伴龍二/SANKEI EXPRESS

 ■割烹蒲焼わかな 神奈川県横浜市中区港町5の20、(電)045・681・1404。営業時間は午前11時~午後9時(ラストオーダーも午後9時)。定休日は月により違うため、要確認。

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