ニュースカテゴリ:EX CONTENTS国際
「中国バブル崩壊説」またぞろ浮上 潜在不良債権320兆円
更新
中国の不動産関連の銀行融資と不動産相場=2008年12月~2013年12月
中国の「不動産バブル崩壊説」がまたぞろ浮上している。評論家の石平(せき・へい)氏によれば、昨年(2013年)12月下旬に中国の不動産業界の中心人物が「不動産バブルが崩壊したスペインは中国の明日だ」などと相次いで警告した。
「地方の中小都市では不動産バブルの破裂がすでに始まった」と、認める政府系エコノミストもいる。中古物件の価格は2012年に北京、上海など大都市部で前年比で数十%も暴落したが、13年には前年比10%程度値上がりしている。上海の専門家に聞くと、市の中心部では売買件数が減っているが、相場は高止まりしているという。
半面で、交通が不便な郊外では買い手がつかず、値下がりが続く状態だ。総じて見ると、「不動産相場急落」が中国全土に広がりかけた12年のような危機的状にはないものの、先行き予断を許さない。
バブル崩壊というのは、金融の現象である。不動産相場の崩落のために、不動産関連融資が焦げ付き、金融機関の不良債権が膨らむ結果、銀行などは信用不安に陥り、預金は集まらないし、金融市場で資金調達もままならなくなる。銀行は新規融資どころではなくなり、貸出金をとにかく回収しようとするので、カネが回らなくなる。
国全体の実体景気が急速に落ち込んだ後、長期不況に陥る。企業も経営難で収益率が下がるので、株価も急落し、回復しにくい。これが1990年代初めの日本のバブル崩壊とその後の慢性デフレ不況の実相である。リーマン・ショック後の米国は日本の二の舞を避けるために、大々的にドルを刷って金融市場に投入し、株価を引き上げ、大恐慌になるのを防いだ。中国には第3の道があるのか。
中国人民銀行のデータによると、銀行による不動産関連融資の残高は昨年(2013年)末で14.6兆元(約246兆円)に上る。このうち、バブル融資になる可能性がある融資はリーマン後に党中央が指令して大々的に貸し出した分で、08年末からの増加額の9.3兆元(約157兆円)である。
このすべてが焦げ付くわけではないので制御可能との判断もあるだろうが、日本のバブル崩壊の場合、銀行の不良債権総額はバブル融資の9割の100兆円を優に超えた。ところが、もう一つ重要なデータを国家統計局が発表している。
それは不動産関連投資の資金源である。投入総額は昨年(2013年)1年間で12.2兆元だが、このうち国内銀行融資は16%に当たる2兆元弱。そのほか自己資金などもあるが、不明額が44%を占める5.4兆元と、銀行融資の2.5倍もある。
この不明資金の正体はどうやら、ノンバンクなどが高利回りの理財商品として広く預金者や投資家から資金を集めて、地方政府系の不動産開発業者に融資する「シャドー・バンキング(影の銀行)」である。影の銀行が活発化した08年末から5年間の不動産関連への投入額は総額20.9兆元に上る。
ノンバンク系と言っても銀行と密接なつながりがある。理財商品は主に銀行の窓口で販売されるし、その半分以上は銀行の返済保証付きである。しかもこのノンバンクは銀行からの迂回(うかい)融資を受けている。ともかく、不動産向けに融資した理財商品が焦げ付いた場合、銀行は少なくとも約10兆元の保証履行を迫られる。となると、不動産バブル崩壊になれば、銀行の潜在的な不良債権総額は20兆元前後(約320兆円)と、中国の名目GDP(国内総生産)の約35%に上る。
問題は中国のバブル崩壊そのものよりも、崩壊不安である。中国は膨大な外貨準備を見せ金にして党中央指令で不良債権を飛ばす芸当ができる点では日米とは違う。企業や銀行の会計も不透明で、ごまかしがきく可能性が高いのだ。
しかし、不動産マネーの規模の大きさから、中国不動産相場下落のニュースだけで、新興国の株式市場全体が揺らぐ傾向がすでに現れている。そこから米国、日本、欧州へと全世界に波及する。日本は、それに影響されないほど強力なアベノミクスを仕上げるしか防衛策はなさそうだ。(産経新聞特別記者・編集委員 田村秀男/SANKEI EXPRESS (動画))