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お札じゃんじゃん刷っても賃金上がらず そんなに甘くない
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アベノミクス1年の主要経済指標(2012年10月~2013年11月)、※データ:財務省、総務省、日本銀行、CEIC
昨年12月16日、「大胆な金融緩和」を掲げた自民党の安倍晋三総裁が衆院選で圧勝し、「アベノミクス」を打ち出した。その「第1の矢」である、継続的に大量におカネを増発する日銀の量的緩和政策にマーケットは大きく反応し、多少の波乱はあっても円安・株高基調が続いてきた。これで雇用が増え、賃金も上がるならめでたし、めでたし。なんのことはない、景気をよくするためにはお札をじゃんじゃん刷ればよい、ということになるが、そんなにうまくことは運ばない。
量的緩和は、2008年9月のリーマン・ショック後、米連邦準備制度理事会(FRB)を筆頭に米欧が実施してきた。日銀は安倍政権になって背中を強く押されてやっと追随した。
中央銀行は金融機関から国債などの金融資産を買い上げる。金融機関はそのカネで株式を買えば、株価が上がる。
銀行から融資を受ける消費者は住宅や車を買う。企業は株式市場から資金調達しやすくなり、設備投資を増やす。需要がこうして増える。
他方、発行量が多い通貨の値打ちは、量の少ない通貨よりも落ちるので、通貨安となる。すると輸出が有利になる。通貨レートが安くなれば、物価が上がる。デフレはこうして止まるし、景気もよくなるはずだ、というシナリオだ。その通りコトが運ぶか。
米国の場合、量的緩和効果で少なくても、1930年代のような「大恐慌」は避けられた。景気のほうは遅々としながらも、次第に上向いている。
だが、日本は米国とは金融構造が大きく異なるうえに、「15年デフレ」にどっぷり漬かってきた消費者も企業も行動を変える気になるまでは時間がかかる。
今年6月末現在、日本の家計金融資産の54%は現預金で、株式など証券資産は14%に過ぎない。米国とは真逆で株高による資産増効果は小さい。
ところが、家計消費水準は消費税増税前の駆け込み需要のある住宅を除けば1年前より悪い。株高による高揚感は、東京・銀座の欧州製高級車店をブランド物で着飾ったセレブでにぎわしているだけのようだ。
製造業で円安の恩恵を受けているのはもっぱら大企業である。アベノミクス開始後、中小企業は逆に収益を減らしている。
勤労者は3%以上賃上げがないと懐具合は悪くなる計算だが、企業雇用の3分の2を担う中小企業の多くは今でも円安に伴う仕入れ原材料コストの上昇を販売価格に転嫁できない。
円安でも貿易収支赤字が増え続けている。量で見ると、輸出は東日本大震災後、最近に至るまで下落基調が止まっていない。輸入量は2010年初めから増加の一途をたどり、アベノミクス開始後は伸びが止まったものの、高水準のまま推移している。
リーマン後、さらに東日本大震災後の超円高局面で、日本企業は海外生産拠点を増強し、そこからの部品・完成品の輸入を増やしている。日本からの現地への輸出型から、現地から日本への輸出型へとビジネスモデルを切り替えたのだ。それを元にもどすのは、さらに円安を促進し、定着させるしかない。
問題は14年4月の消費税増税後だ。日銀の政策委員会の大勢は来年の消費者物価上昇率を消費増税の影響分を含め3%前後とみているが、1年物定期預金の利率は0.2%に過ぎない。インフレ分を勘案すると家計資産はかなり目減りする。
住宅や自動車、家電など耐久消費財の需要は消費増税前の駆け込み需要から一転して大きく落ち込む恐れがある。12月16日に発表された日銀の短期経済観測では大企業が設備投資計画を減額修正している。財務省の法人企業統計でも大企業の設備投資は前年水準を下回る。
消費増税後の景気落ち込みをカバーする決め手は、もっぱら「金融の追加緩和」だと、マーケット関係者が催促する。黒田東彦(はるひこ)日銀総裁も「景気が不安になっても金融で対処できる」と消費増税を後押しした。
消費増税によるデフレ効果を懸念してきた安倍首相周辺でも「黒田さんはやってくれるでしょうね」(内閣参与の浜田宏一エール大学教授)と期待が大きい。
金融緩和は確かに、円安・株高をもたらしたが、アベノミクス1年をみると、それだけでは、実体経済を浮揚させるのに不十分なように見える。追加金融緩和にばかり頼らず、安倍政権はアベノミクス第2の矢の財政出動、第3の矢の成長戦略でかなり大胆な手を打つべきではないか。(産経新聞特別記者・編集委員 田村秀男/SANKEI EXPRESS)