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汚職腐敗で行き詰まった中国の成長モデル

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汚職腐敗で行き詰まった中国の成長モデル

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 【国際政治経済学入門】

 中国共産党は、11月9日から3日間、北京で第18期中央委員会第三回全体会議(三中全会)を開く。国営通信社の新華社は「広範囲にわたり、大胆で前例がないものになる」と、事前に「経済改革」を喧伝している。議題の主要項目は金融自由化、国有企業改革、土地所有制度改革など「経済の自由化」で、英エコノミスト誌などは習近平総書記の指導力に大きな期待を寄せているが、政治制度の自由化抜きの経済自由化は党官僚の利権機会を新たに増やすだけとの冷めた見方が外部には多い。

 党指令型

 「三中全会」と言えば、1978年12月、復権した●(=登におおざと)小平(とう・しょうへい)氏が主導した例がある。改革開放路線が打ち出された。経済開発の基本は、党が指令する財政、金融、投資の配分制度で、実行手段としたのは北京の党中央指導部各人が気脈を通じる党幹部を地方に配置し、地方の開発権限、つまり利権を丸投げする「放権譲利」である。

 資本や技術の蓄積が貧弱だった中で、農民層を中心とする安価な労働力を活用して外資を引き寄せ、国内資本を蓄積し、国有商業銀行を通じて再配分する。利権というインセンティブに駆り立てられる地方赴任の党官僚は農民から土地を取り上げ、沿海部を中心に広大な工業開発特区を設置し、外資を積極的に導入してきた。日本からの円借款を受け、道路、港湾、空港などのインフラを整備してきた。外資との合弁や技術提携をもとに国有企業も徐々に力をつけ、輸出と固定資産投資により、国内総生産(GDP)がかさ上げされる。その成長の基本モデルは現在に至るまで不変と言っていい。

 2008年9月の「リーマン・ショック」を受け、当時の胡総書記は党指令型成長モデルをフルに回転させた。09年に中国は9.2%成長したが、GDP拡大分の91%が固定資産投資による。党中央の指示で国有商業銀行が融資を一挙に3倍に増やし、地方政府や国有企業に貸し付ける。地方の党幹部は工場誘致が困難とみるや、不動産開発の受け皿会社を相次いでつくり、農地を潰して高層ビル群を建設する。上海など大都市郊外はもちろん、住宅需要の少ない内陸部でも高層住宅建設ラッシュが起きた。

 バブル崩壊不安

 胡錦濤前政権の巨大な負の遺産が、汚職腐敗の広がりである。党幹部の不正蓄財の横行は中国の経済モデルをコントロール不能にし、習総書記は汚職腐敗一掃を掲げている。

 不正蓄財される資金は香港経由などで海外にいったん移されたあと中国本土に還流して不動産などに投資され、その売買益は再び海外に流されたあと、またもや還流するという循環プロセスの中で増殖を続ける。不正蓄財規模は半端ではない。不正資金総額のおよその検討は付けられる。厳しい外国為替管理体制を敷く中国で、海外との間で合法的に出入りできる資金は(1)貿易収支の黒字または赤字分(2)中国からの対外投資に伴う利子・配当収入から外国企業の対中投資の利子・配当収入を差し引いた所得収支(3)対内、対外直接投資の差額…である。これら合法資金の増加額合計から外貨準備増加額を差し引いた額を非合法な資本収支としてみなしたのがグラフである。

 一目瞭然、熱銭を中心とする資本は08年9月のリーマン・ショック直後に年間1000億ドル規模で逃避したが、北京当局による融資増で値上がりし始めた不動産に逃げた熱銭が入り、不動産や金融のバブルを引き起こした。バブル崩壊不安が生じた11年後半から熱銭は引き上げ始め、12年前半からは資本流出に転じた。

 「自由化」では修復不能

 国家統計局は08年12月から四半期ごとの対外直接投資を公表している。対外直接投資は年々増え、11年746億ドル、12年には878億ドルに上る。この分をカウントすれば、11年の熱銭流入額は約1800億ドル、12年の逃避額は約900億ドルとなる。いずれにしても、巨額の投機資金が中国のバブル経済を支える半面で、その流出はバブル崩壊の引き金になる。

 熱銭を国内につなぎ止めるために、当局は金利を高めに据え置き、人民元の値打ちを上げる、つまり元高政策をとっている。元高は輸出産業に打撃を与え、鉄道貨物輸送量でみる中国の実体経済は昨年末からゼロ%以下の成長を続けている。農村からの出稼ぎ労働者を中心に不満が高まり、暴動が頻発するわけである。巨大な党利権機構が組み込まれた中国の政治経済社会は、付き物の不正蓄財ゆえに崩壊しかねない脆(もろ)さを内包している。

 習総書記の指示で経済の自由化が仮に一部で実行されようとも、党支配による市場経済モデルの破綻を修復できるはずはないだろう。(産経新聞特別記者・編集委員 田村秀男/SANKEI EXPRESS

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