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洗脳されたとは思いたくない 「国際公約」は消費増税翼賛会の欺瞞

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洗脳されたとは思いたくない 「国際公約」は消費増税翼賛会の欺瞞

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 【国際政治経済学入門】

 財務官僚に洗脳されたとは思いたくないが、麻生太郎財務相が消費増税への前のめり発言を繰り返している。

 財務官僚があせって首相周辺やメディアの幹部たちに「予定通り増税しないと、日本国債が暴落する」と“ご説明”に回っているのだが、肝心の安倍晋三首相は依然として慎重姿勢を崩していない。副総理でもある麻生財務相は安倍首相の「盟友」でもあるから、その発言は安倍氏の意向に全く反するとは考えにくいと、市場関係者はみる。だから、市場では「消費増税はもはや織り込み済み」となって、円と国債が買われ、株価が下がり気味になるのが、最近の姿だ。

 失敗の責任は…

 市場は確かに正直で、増税はデフレ、デフレなら日本国債が買われるので円高、円高なら日本企業収益は下がるので日本株は安くなる。消費増税不可避モードの円高・株安は明らかに、増税後の日本のマーケットの低迷をまるでジプシー占いの水晶玉のように映し出している。

 が、真に問題なのは、消費増税をめぐるドタバタ劇ではない。財務官僚、それにくみする主流メディア、麻生氏ら政界の増税推進派は、日本という国を本当によくするということに関し、消費増税によってアベノミクスを頓挫させ、脱デフレに失敗したとき、責任をとる覚悟があるか、どうかである。橋本龍太郎政権下で1997年度の消費増税が引き起こした「15年デフレ」で国の衰退、国民の疲弊を招き、財政収支悪化を引き起こした責任を財務官僚は誰もとっていないし、それを支持した政治家もメディアも知らぬ、存ぜぬである。唯一、当の橋本氏があとで激しく悔やんでいただけである。橋本氏は筆者が知る限り、恥を知るサムライの精神を持つ数少ない政治家である。

 実は、権力者・エリートたちの無責任さこそが、安倍首相の言う「戦後レジーム」の副産物である。政策を間違えても、「無謬(むびゅう)」の理屈付けに徹する財務官僚、その理屈付けに手を貸す御用経済学者たち、御用経済学者の言説を重用し続ける日経新聞など主流派メディア、そして増税デフレを全く意に介さない政治家たち。増税翼賛会グループこそが「戦後レジーム」を形成している。

 自国民を犠牲に

 最近の消費増税翼賛会グループの欺瞞(ぎまん)ぶりを端的に表したのが、「消費増税は国際公約」という見解である。

 かの麻生財務相はモスクワでの20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議後、「消費増税は国際公約に近い」と言い、日経などはさらに増税やむなしの論拠として「国際公約だ」と言い切っている。その実、このG20会議の眼目は「財政健全化より成長を優先」だったのだが、日本だけは増税を優先するという。2011年11月のカンヌでのG20首脳会議の「行動計画」で、日本は野田佳彦前首相がわざわざ増税を盛り込んだ。安倍政権がそれを国際公約として踏襲するとでも、麻生氏は言い張るのだろうか。

 もとより、増税を国際公約する、という発想はまともな国ならありえない。しかも、日本は外国資本に依存するギリシャではなく、世界最大の債権国である。その国が国民の負担増を強いる政策を国際公約にするというのは、異常きわまりない。

 日本が大型増税によってデフレを継続することは、米国金融主導のグローバリズムへの日本の「協調」を意味する。金融面での国際協調の内実は国益をかけた騙(だま)し合いゲームである。米欧が自国の利益を優先する範囲内で合意を図るのに、日本は自国民を犠牲にしてでも増税を公約してしまう。

 国際金融市場とは何か。異形の大国中国がいかに米国債を保有しようと、それは米国にとって不安材料であり、安定装置はやはり世界一の債権大国である日本からの資金供給ルートしかない。日本がデフレである限り、日本国民の巨大な余剰資金が国内生産に使われずに、海外に出ていかざるをえず、米国債投資に回る。ウォール街にとってドルに対して価値が上がるデフレ下の円建て金融資産はラスト・リゾート(最後のよりどころ)となる。消費増税ともなれば、日本の消費者の負担増を担保にする日本国債は高い価値が保証される。これがワシントン主導の国際通貨基金(IMF)が日本の財務官僚と組んで盛んに消費増税を日本に催促してきた背景である。

 他方では、「財政再建よりも経済成長を優先すべし」とIMF、G7、G20ともうたっている。にもかかわらず、世界最大の債権国、つまり最大の貸し手である日本だけは緊縮財政を優先するというのは、倒錯としか言いようがない。(産経新聞特別記者・編集委員 田村秀男/SANKEI EXPRESS

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