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尾を引くデトロイト市破綻

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尾を引くデトロイト市破綻

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 【アメリカを読む】

 「州憲法を読み、自らが取った行動を考え直すことを望む」

 財政破綻した米中西部ミシガン州デトロイト市が連邦破産法第9条の適用を申請してから一夜明けた7月19日。州地裁の判事は、破産申請を承認したミシガン州のリック・スナイダー知事(54)に苦言を呈した。地裁は、破産法申請を承認する権限を州知事に認めた州法が州憲法に違反していると判断。申請の取り下げをデトロイト市に命じた。

 米自治体として史上最大の破綻となったデトロイト市をめぐる騒動が尾を引きそうだ。自動車産業のメッカとして発展した名門都市も、基幹産業の衰退で没落。法的整理で再スタートを切るが、財政再建をめぐる攻防がいたるところで激化。「破綻ドミノ」が広がるのではとの不安も米社会を覆っている。

 是非判断が法廷闘争に

 裁判所の管理下で再建を進めるデトロイト市は、債権者との債務削減協議のほか、退職した職員の年金削減などの改革を進めるとみられる。だが、当然ながら市のOBや現役職員の抵抗は根強い。冒頭で紹介した訴訟も、市の財政問題が緊迫する中、破産法の適用申請を阻止するため、市の退職者や年金基金が起こしていたものだ。

 市の破産申請に「待った」をかけた州地裁だが、原告側の喜びもつかの間。州地裁の命令を当然不服としてミシガン州が控訴したのを受け、州の破産裁判所は24日、訴訟の停止措置を命じたからだ。デトロイト市は破産裁判所の最終的な判断が示されるまで、破綻手続きを進めることが可能になった。ただ、法廷の場にまで持ち込まれた財政破綻の是非は、なお予断を許さない展開となっている。

 美術品の売却騒動

 デトロイト市の財政破綻は思わぬ余波も生んでいる。デトロイト美術館(DIA)を舞台とした所蔵品の売却騒動がそれだ。1885年に創設されたDIAは、古代エジプト美術から現代美術まで6万5000点以上のコレクションを抱え、全米6位の規模を誇る。有名なゴッホの「麦わら帽子の自画像」やルノワールなど印象派の名画の数々、中東やアジアなど世界各地の美術品が、市民や観光客、さらには専門家や目の肥えた美術ファンを楽しませている。

 所蔵品の売却騒動が表面化したのは、デトロイト市が財政破綻にまだ陥る前の5月ごろ。市の財政再建を指揮する緊急事態財政管理者がDIAに所蔵品目録の提出を求めていたことが判明した。コレクション全体での評価額は25億ドル(約2460億円)との観測も飛び交い、180億ドル(約1兆7680億円)を超える市の負債減らしとしては悪くない「お宝」だ。

 しかし、市民やDIA職員から非難の声が上がり、市がとうとう破綻してデトロイトへの注目が一層増すと、全米規模でも美術団体などから批判が続出。米博物館協会の幹部は「もちろん心配している」と懸念を表明した。

 だが、高まる反発にもデトロイト市側は強硬な態度を崩さず、美術品の処分を検討中とみられる。米紙ワシントン・ポストは「売却を禁じる法律でもできない限り、債権者からDIAのコレクションを守れるかは不透明だ」と指摘している。

 広がる財政格差

 米国では東部などの大都市圏と地方の財政格差が開き、人口と企業の流出による税収不足から財政難に陥る自治体が続出している。とくにミシガン州やオハイオ州など中西部は「ラスト・ベルト(さびついた産業地帯)」と呼ばれ、鉄鋼など製造業の衰退が著しい。

 米国の州や市は財源をまかなうため地方債を発行しているが、その格付けも近年急落。一昨年に破綻したアラバマ州ジェファーソン郡も、格下げによる信用不安が引き金だった。自治体はいざとなれば増税に踏み切れるが、当然住民の抵抗は強い。シェールガスの開発で潤う一部地域を除けば、財政再建へ光明が見いだせない自治体は少なくない。

 デトロイト市の財政破綻は、景気回復から取り残された米自治体の財政リスクを浮き彫りにした。基幹産業の衰退で空洞化し、税収難がとどめを刺す負の連鎖。デトロイトの転落に続く破綻ドミノの不安が米経済とオバマ政権の先行きに暗い影を落としている。(ワシントン支局 柿内公輔(かきうち・こうすけ)/SANKEI EXPRESS

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