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参院選後に何を成すのか
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いよいよ参院選が公示された。伝えられている報道各社の世論調査などによれば選挙後、安倍晋三首相(58)の退陣などはよもやあるまい。となれば、首相は先々を見越し、いかなる政権運営に心を砕くのか。そのさじ加減を誤ると、このコラムのタイトル「安倍政権考」ならぬ、「安倍残念考」になるのは請け合いである。勝てる者の混迷ほど深刻なそれはないのだから。
選挙結果は「神のみぞ知る」。とはいえ、公示前の情勢では、もっぱら「安倍・自民党」の優勢ばかりが伝えられ、与党で過半数を獲得し、「ねじれ国会」という政治の足かせを外せるのは、もはや確実なようである。
昨年12月に第2次安倍政権が発足して以降、巷間(こうかん)指摘されている通り、首相が「世論の離反を招かないよう、慎重の上にも慎重に政権運営をやってきた」(自民党関係者)のも、国会の「ねじれ」解消を目指し、安定政権を引き寄せたい思い一筋だったのは、疑いようがない。
聞けば、「真・保守主義」に裏打ちされた「戦後レジームからの脱却」などを提唱し、首相が会長を務める超党派議連「創生『日本』」が選挙後、総会を開く可能性があるという。議連内に政治の立ち位置が異なる国会議員がいるとはいえ、議連は昨年9月の自民党総裁選では、首相を第25代総裁すべく活動し、これを実現させた。いわば首相の「政治的よりどころ」である。
来る総会でより具体的な政治の方向性を打ち出して、党内世論を盛り上げ、もって「安倍カラー」の施策を導こうというわけだ。憲法改正は言うに及ばず、集団的自衛権の行使を可能とする憲法解釈の変更など、「国のかたち」を整備し、真の独立国家を回復させることを目指す。
そうはいっても、首相がこなさなければならない政治課題は、何も「安倍カラー」に彩られた施策だけではない。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の妥結、来年4月に消費税率を引き上げるかの最終判断…。
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾(ぎのわん)市)の移設問題はこれまで通り、丁寧な対応が求められるし、尖閣諸島(沖縄県石垣市)や竹島(島根県隠岐(おき)の島町)をめぐって悪化した中韓両国との関係修復も横たわっている。
ちなみに、首相の政治スタイルを考えるに、「理(ことわり)の政治家」ではないかと推察する。辞書によれば、「理」とは、物事の筋道、道理といった意味となる。「創生『日本』」のような政治理念を押し出した「美しい日本」をどう構築するのかが大切なのだろう。
実際、その政治スタイルからは、自民党の派閥全盛時代に存在していた党人政治家のような、理念を捨てて利にさとい資質も垣間見えない。幹事長を務めはしたが、「強面(こわもて)」で党内にらみをきかせた風もとんとなく、首相の座に2回座りながら、派閥会長の経験はない。
参院選後、政権基盤が盤石となり、経済状況が上向き加減を維持すれば、これほど恵まれた政治環境はあるまい。首相周辺は「安倍官邸」が参院選まで大きく動揺することなく、どうにかやってこれた事情をこう説明する。
「常に1カ月先を見越したスケジュール感をもってさばき方を考えている」
この伝で言えば、選挙後の政治日程や課題の処理は織り込み済みのはずである。参院選の結果が予想通りとなれば、首相は心底、「ここまでよくやってきた」と胸をなで下ろすだろう。
だが、「これからどうする」の覚悟と見識なくして、どうして長期政権が視野に入ってこよう。首相が真価を問われるのは、選挙後と言ってよい。(松本浩史/SANKEI EXPRESS)