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参院がおびえた「恐怖のシナリオ」
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第183通常国会が6月26日、150日間の会期を終え、閉幕した。参院で野党が多数を占める「衆参ねじれ」国会で焦点となった衆院選挙区「0増5減」に伴う区割り改定法は(6月)24日に、衆院の3分の2以上の賛成による再可決で成立した。参院で60日間も審議されず置き去りにされた結果だったが、その裏では、参院の独立性が脅かされかねない「恐怖のシナリオ」がささやかれていた。
安倍晋三首相(58)は(6月)26日の記者会見で「日本のため、ねじれ国会に終止符を打たねばならない」と語り、7月21日投開票の参院選で自民、公明両党で過半数を確保する決意を表明した。そして、首相がねじれ国会の象徴として挙げたのが、区割り改定法案だった。
「区割り改定法案は民主党が第一党の参院で60日以上放置された。可決も否決もしない。まさに決められない政治、迷走する政治。これがねじれです!」
区割り改定法案は、「一票の格差」を放置したまま行われた昨年12月の衆院選に対し「無効」「違憲」の高裁判決が相次いだことから、格差を2倍未満に抑えるため定数を475人(0増5減)にする具体的な選挙区割りを定めたものだ。
ただ、みんなの党は、渡辺喜美代表(61)が「(0増5減だけでは)再び違憲状態、場合によっては無効判決も出かねない」と主張し、5月17日に選挙区「18増23減」法案を参院に提出した。
野党が多数を占める参院なら審議できると踏んだようだが、これ以降、区割り改定法案と18増23減案の同時審議を求める野党と、区割り改定法案の単独審議を主張する与党との対立が続いた。
与党がかたくなに18増23減法案の審議入りを拒否したのは、「恐怖のシナリオ」がちらついたからでもあった。
18増23減法案は衆院の選挙制度を見直すもので、これを参院で先に審議しては、逆に参院の選挙制度を衆院で審議されても抗弁できなくなる。ある与党議員が解説する。
「参院選が終われば、3年間は国政選挙がないとされる。衆参両院の選挙制度を見直すにはいい時期だ。参院で18増23減法案を審議入りしたら、衆院主導で参院の選挙制度を変えられても文句を言えなくなる。二度とねじれを起こさせない、と抜本改革の名の下に衆院から参院に手を突っ込まれてしまう…」
18増23減法案は、区割り改定法案の「対案」と位置づけられた。そのため、18増23減法案を参院で可決し衆院に送っても、すでに区割り改定法案を可決している衆院では、同一会期中に同一案件を同一院では審議しない「一事不再議の原則」により、審議できない。成立見込みのない「無理筋」法案だった。
そんな法案を、野党は強引に区割り改定法案とともに参院の政治倫理・選挙制度特別委員会に付託した。結局は混乱したまま審議入りせず、「恐怖のシナリオ」も闇に消えた。
衆院主導による参院の選挙制度見直しについて、与党内にも「そんなバカなことはできないし、しない。絵空事だ」と否定的な見方があった。野党側も、区割り改定法案を早く成立させるための「揺さぶり材料」と見ていた。
ただ、衆院は現在、自民、公明両党が3分の2以上の議席を占める。参院で法案を否決しても、衆院で3分の2以上の賛成により成立させることが可能だ。自民党の参院幹部は同時審議を主張していた野党幹部に、こう耳打ちした。
「いま衆院は与党が3分の2をもっている。しかも自民党の衆院側には一院制論者が多くいることもお忘れなく…」
(大谷次郎/SANKEI EXPRESS)