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投機が左右 日本もトルコも同じ

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投機が左右 日本もトルコも同じ

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日米と新興国の株価指数の推移=※2013年1月末のMSCI株価指数=100、2014年1月は15日時点  【国際政治経済学入門】

 脱デフレと成長をめざすアベノミクスは2年目に入った。その「第1の矢」である、お札を大量に増刷する日銀の異次元金融緩和策で今年も巨額の日銀マネーが金融市場に流し込まれる。金融主導経済に死角はないのか。

 米市場回復で「売り逃げ」

 グラフは、国際標準株価指数「MSCI」でみる中国やインド、トルコなど新興国と日米の株価(ドル建て)の推移である。日本の株価を国際比較する理由は、金融市場がグローバル化し、巨額の投資ファンドの資金が目まぐるしく移動する中では、一国だけを取り上げてもあまり意味がないからである。

 よく見ると、トルコの急落ぶりが際立っている。トルコは実質経済成長率が年4~5%も伸びているのに、なぜか。

 最大の原因は米連邦準備制度理事会(FRB)の量的緩和(QE)縮小である。QE縮小の観測が出始めた昨年(2013年)前半から、欧米の投資ファンドが一斉にトルコ企業株を売り始めた。資本流出に歯止めがかからず、通貨「リラ」は下落し続ける。リラ安でも自動車など付加価値の高い産業規模は小さく輸出は伸びない。

 市場不安はトルコの政情不安による、との見方が市場アナリストの間で多い。確かに盤石に見えたエルドアン政権は最近、イスラムの支持勢力で仲間割れが起き、側近の汚職騒ぎなどで揺さぶられている。しかし、年末年始に現地を回ってみたら、世情は安定しており、人々は勤勉そのものだ。政局は国際投機筋の「売り逃げ」の口実にすぎない。その証拠に、トルコに限らず、株や通貨の不安は新興国全体に及んでいる。政情が比較的安定しているインドネシアもトルコに連動する形で株価が下落している。

 ニューヨーク・ウォール街やロンドン・シティに拠点を持つ投資ファンドはグローバルな資産運用を行い、米国市場がだめなら新興国での運用比率を引き上げるが、米市場が回復してくれば、さっさと手じまいする。「新興国ブーム」はいわば、ドルの洪水に浮かぶ「バブル(泡)」だったのだ。

 消費・生産に回らないカネ

 アベノミクスの日本も株高で浮かれてはいられない。米欧の投資ファンドを中心にした外国投資家は「円安=日本株買い」という自動売買プログラムを稼働させるので、株高が導き出される。外国投資家の投機に左右される点では、東京市場もイスタンブール市場も同じなのだ。

 日銀の異次元緩和はそんな不安を吹き飛ばしてくれるのか。日銀は昨年(2013年)1年間で61.4兆円もカネを追加発行して、金融機関から主に国債を買い上げてきた。日銀マネーが直接、金融機関経由で株の購入に充当されるわけではないが、量的緩和はドルなど他通貨に対する円安を招き寄せる。米欧の投資ファンドを中心にした外国投資家は「円安=日本株買い」という自動売買プログラムを稼働させるので、株高が導き出される。日経平均株価は年間で7割以上上昇し、東京証券取引所の株式時価総額は180兆円余り膨らんだ。

 では実体経済にどれだけカネが回ったのか。まず銀行の資産は42兆円増えた。日銀が銀行から国債などを買い上げた分、銀行は資金を受けとるが、その97%の63兆円はそのまま民間銀行が持つ日銀の当座預金にとどめ置かれている。なにしろ日銀はこの銀行の余剰資金に0.1%の金利を払ってくれるので、銀行は積極的に貸し出しに回さなくてもよい。従って、貸し出し増加額は日銀資金供給増加額の23%弱の14兆円にとどまる。

 日銀マネーがわれわれの消費や生産活動に回れば、銀行預金や現金流通量が増える。これらに預金に準じる大口の譲渡性預金証書(CD)を加えたものが、実体経済に流れるお金であり、金融用語では「マネーストックM2」と呼ばれる。通常、景気がよくなれば、おのずとM2は増えるのだが、日銀マネーが61兆円余り追加されたのに、M2はその57%、35兆円しか増えていない。

 株高依存は危険

 多くの金融機関は国内よりも海外向けに融資するのは熱心である。企業の対外投資を含め、日本の対外金融資産は9月末で総額130兆円、海外の対日金融資産増加分を差し引いたネットで24兆円増えた。

 株高のおかげで年金の運用益は大幅に増えた。名目国内総生産(GDP)は約10兆円、税収も固く見積もっても1.4兆円増えているのも好材料だが、4月からの消費増税と財政緊縮による家計への圧迫は10兆円以上で、アベノミクスの実体景気拡大分を吹き飛ばしかねない。日銀の追加緩和は欠かせないのだが、それでも増税によるデフレ圧力を解消するのは困難かもしれない。株高に依存して財政緊縮路線をとるのは、危ういのだ。(産経新聞特別記者・編集委員 田村秀男/SANKEI EXPRESS

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