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フランス語による名曲名唱と「歌」の魅力 ジュリエット・グレコ、ナタリー・デセイ
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フランスのシャンソン界に君臨する歌手、ジュリエット・グレコ。(C)JMLUBRANO フランス音楽の代名詞といえばシャンソンだが、本来シャンソンとは「歌」を意味するフランス語。音楽のジャンルに「歌」と名付けてしまうというのは、それだけメロディーや歌詞を大切にするお国柄が反映されているとも言い換えられる。また、フランス語の歌詞の響きやフランス語圏の作曲家が生み出す旋律には、得もいわれぬ独特の浮遊感やロマンチシズムが感じられるのが面白い。シャンソンやフレンチポップスに魅了される音楽ファンが世界中にいるのは、やはりそこに「歌」があるからこそなのだ。
そんなフランスのシャンソン界に君臨する歌手の最高峰が、ジュリエット・グレコ。現在86歳という高齢ながら、いまなお現役であり、昨年には「ジャック・ブレルを歌う」という傑作を作り上げた。このジャック・ブレルとは、ベルギー出身で、主にフランスで活躍したシンガー・ソングライター。1950年代にグレコが歌うことによって注目を浴び、知性あふれる独自の言葉や幅広い音楽性が大きな評価を得てスターとなった。70年代末に若くして亡くなったが、いまもカリスマ的存在である。グレコはそんな盟友ブレルが残した楽曲を、シンプルな演奏をバックに陰影を付けながらも淡々と歌っていく。声と言葉が完璧に一体化し、一曲一曲が一本の映画のように濃厚なドラマを感じさせてくれる力作だ。
一方、華やかなオペラ界からシャンソン界に飛び込んで話題になったのが、ナタリー・デセイ。世界中を飛び回るプリマドンナとしての地位を捨て去り、ポピュラー歌手へと転向したのは、やはり「歌」の力に魅せられたからだろう。そんなデセイが最初に選んだお相手が、フランスを代表する作曲家兼ピアニストのミシェル・ルグラン。数々の映画音楽で知られるメロディーメーカーだけに、共作アルバム「ミシェル・ルグランをうたう」は、生まれ変わったデセイをアピールするには申し分のない作品となっている。「ロシュフォールの恋人たち」や「シェルブールの雨傘」といった映画の名曲を多数取り上げているが、やはり耳に残るのはコケティッシュな歌声とフランス語の響き。思い切ってオペラ唱法を封印しただけの価値がある作品集に仕上がっている。(音楽&旅ライター 栗本斉(ひとし)/SANKEI EXPRESS)