ピアノソロという形態の音楽は以前から好きなのだが、ここ数年はその傾向が強まっている。だから昨年行われた「ピアノ・エラ２０１３」というイベントは非常に興味深かった。国内外の７人のピアニストが競演を繰り広げるというもので、誰にでも簡単に音を鳴らすことのできる楽器にもかかわらず、弾く人によってこうも変わるのかと痛感した。

　そのなかでもひと際強烈だったのが、ブラジルのピアニスト、アンドレ・メマーリだ。３０代半ばの若きマエストロは、多くのミュージシャンと共演し腕を磨いてきたが、ソロ名義でもジャンルを超越した作品を残している。クラシックでもジャズでもボサノバでもない独自のメロディーやハーモニー。そして宇宙を感じさせるスケールと、どこかメランコリックな世界観は唯一無二。それがライブとなると絶妙な躍動感が加わり、楽器からほとばしるエネルギーで聴く者を圧倒させる。今年もまたピアノをじっくり聴く一年になりそうだ。（音楽＆旅ライター　栗本斉（ひとし）／ＳＡＮＫＥＩ　ＥＸＰＲＥＳＳ）