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都内の丘から拝む「日本一の山」 東京富士見坂めぐり編

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都内の丘から拝む「日本一の山」 東京富士見坂めぐり編

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東京23区の富士見坂で富士山を拝もう(イラスト:今泉有美子)  【ぶらぶら街歩き】

 今年も一年健やかに過ごすために、新年は縁起を担いで富士山を拝みたい。静岡や山梨へ出かければ壮大な富士山を間近で拝むこともできるが、せっかくなら都内の丘の上から雪化粧した富士山を探すのも趣がある。しかし、高層マンションや東京タワーなどに上らなくても、都内から富士山を拝むことなどできるのだろうか…。地図を片手に、富士山が見える丘を求めて都内を歩くことにした。

 予想以上にくっきり

 東京都内で富士山を見るなら、あちこちにある「富士見坂」に出かければよさそうなもの。とはいっても、記者の自宅そばにある「富士見坂」からは一度も富士山が見えたことはない気が…。それでは、一体どこの「富士見坂」に行けば富士山が見えるのか。今回は、東京近郊の坂という坂を歩き倒し、“坂名人”としても知られる「坂学会」の井手のり子さん(64)を訪ね、富士山の見える「富士見坂」を教えてもらった。

 井手さんによると、都内には富士山が見える坂は多いが、「富士見坂」という名前のついた「富士山がまだ見える坂」は最近まで4カ所だったという。ところが、もっともきれいに富士山が見えるとされた荒川区西日暮里の「富士見坂」は、昨年(2013年)夏にマンションが立ってしまったために眺望が変わってしまったのだとか。「富士山の稜線も見えたので、富士に日が沈む『ダイヤモンド富士』が見える時期は、シャッターチャンスを狙ったカメラマンが坂沿いにずらりと並んでいたものです」

 そのほかの富士山が見られる可能性のある「富士見坂」は、文京区大塚の護国寺近くにある「富士見坂」、世田谷区岡本3丁目付近にある「岡本三丁目の坂」(別名・富士見坂)、そして2005年に新興住宅地の完成とともに新たに加わった足立区新田の「ふじみ坂」の3カ所。中でも井手さんのお薦めは、田園都市線「二子玉川駅」と小田急線「成城学園前」の中間に位置する「岡本三丁目の坂」だという。「世田谷の西の方は、都内でも富士山にかなり近い地域です。富士山を見るなら冬の朝。早起きをして出かければ、真っ白な富士山が見える確率もぐっと上がりますよ」

 井手さんのアドバイスに従い、さっそく田園都市線に乗って二子玉川駅方面へ向かった。駅を降り、多摩川支流の「野川」脇を通る多摩堤通りを北西方面へと歩く。閑静な住宅街を抜けると、突然勾配の急な坂が現れた。30メートルほどの坂だが、運動不足の足腰には堪える…。上り切って北西の空を振り返ると、予想をはるかに超えた雄大な富士山がくっきりと浮かんでいた。

 岡本三丁目の坂は、ちょうど富士山側の一体が低地になっているため、まるで空に浮かんでいるかのような富士山を拝むことができる。立ち止まって見ていると、一人、また一人と通りがかった人が足を止め富士山を見上げていた。犬の散歩をしていた地元の男性に話しかけると、「都内で富士山が見られる『富士見坂』は、ここを含めて3カ所しかないんですか」と驚いた様子だった。

 新興住宅地にも

 続いては、JR王子駅の北、足立区新田の新興住宅地「ハートアイランドSHINDEN」へと向かった。ここは荒川と隅田川に囲まれた工場跡地で、新たな橋や道路、公園、学校などの整備が進められているエリア。ここの「ふじみ坂」は、新たに富士山が見られる場所として話題を呼んでいる。

 JR王子駅で降り、北に向かうこと約20分。荒川の土手沿いに建設されたハートアイランドに入ると、“人工”のふじみ坂を発見した。周辺は低地だが、団地内は高くなっていることから富士山が見られるようになったのだとか。坂の上の広場から西の空を見上げると、高層住宅のすき間にぽっかりと富士山の山頂が見えた。

 残したい景色

 坂名人の井手さんが、東京近郊の坂を歩き始めたのは今から約15年前だという。「初めての坂との出会いは、忘れもしない湯島の『妻恋坂』です。そもそも名前がロマンチックで気になったんですが、関東平野と言われる東京にも坂があったんだということも驚きでした」

 その後、地図を意識して見るようになった井手さん、都内は坂だらけだったことに気付いたという。当時はインターネットが今ほど発達していなかったため、坂の名前を地図で見つけてはしらみつぶしに歩いた。特に文京区、港区には勾配が急な坂も多く、個性的な名前が付けられている坂もあったという。

 そしてその中でも、圧倒的に多かったのが「富士見坂」だった。「昔はマンションや高層ビルもないでしょうから、冬の朝は高台から富士山が見えたんだと思います。今ではそんな坂が数カ所になってしまったのは寂しいけど、いま残っている富士山が見える景色は、ずっと残してほしいですよね」

 タワーや高層ビルではない東京の「富士見坂」から見上げる富士山。雄大な山に向かって手を合わせ、一年の無病息災を祈願した。(文・イラスト:今泉有美子/SANKEI EXPRESS

 【都内から富士山を見るコツ】

・富士山は冬の早朝が美しい。早起きして午前8時ごろまでに観測地点へ

・風が強い日が狙い目。空が澄み渡っている確率が高く、くっきりとした富士山が見られることが多い

・写真に写すと意外と小さくてガッカリするので、目で見て楽しむべし

・観測地点は住宅街の場合も多い。くれぐれも静かに楽しむこと

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