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ヒマラヤを撮る 天使の首飾りを彩る「ひだ」 野口健
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静かなヒマラヤを歩いていると、特に感じることがある。それは、「風」だ。日常では、それほど気にしていない空気の流れを、空や音や感覚で敏感に感じる。
その風が作り出すヒマラヤの神秘が「ヒマラヤひだ」だ。写真はアマダブラム峰。美しいヒマラヤひだが何本も作り出されている。ヒマラヤひだは、風が吹き付けられることによって、氷河が削れ、縦に筋ができる。
なぜ、等間隔に筋ができるのか、メカニズムは解明されていないらしい。トレッキング中の私はついつい足を止め、太陽の光を浴びて、美しく輝いているヒマラヤひだを眺める。「天使の首飾り」と言われているアマダブラム峰は、いつ見ても美しく、堂々としている。
何十回もヒマラヤを訪れ、何十回も見た山だが、毎回、その荘厳さにハッとさせられる。
≪風の流れが変える山の表情≫
ヒマラヤ登山を行う際に「快晴無風」を願うのは、登山家として当たり前だ。しかし、カメラを抱え、ヒマラヤの表情を求めてやってきた場合、別の世界を求める。風の流れは、ヒマラヤの表情を刻々と変化させていく。まるで生き物のように。
エベレストの姿を求め、ゴーキョピーク(5360メートル)に登った。
テントを張り、早朝に起床。テントの中は、氷に覆われているかのように寒い。そんな中、カメラを構え、朝日が昇ってくるのをじっと待っている。
雲と朝日によって作り出されるグラデーションは、刻一刻と変化し、同じ表情は2度と現われない。無音の中で、何とも色っぽい空の表情を無我夢中で撮り続けた。
気が付くと、体は冷え切り、シャッターを押す指の感覚さえ分からなくなっていた。
ヒマラヤで感じる「風」を求めて、私は、また、ヒマラヤへ行く。(写真・文:アルピニスト 野口健/SANKEI EXPRESS)