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ヒマラヤを撮る 天使の首飾りを彩る「ひだ」 野口健

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSの科学

ヒマラヤを撮る 天使の首飾りを彩る「ひだ」 野口健

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 静かなヒマラヤを歩いていると、特に感じることがある。それは、「風」だ。日常では、それほど気にしていない空気の流れを、空や音や感覚で敏感に感じる。

 その風が作り出すヒマラヤの神秘が「ヒマラヤひだ」だ。写真はアマダブラム峰。美しいヒマラヤひだが何本も作り出されている。ヒマラヤひだは、風が吹き付けられることによって、氷河が削れ、縦に筋ができる。

 なぜ、等間隔に筋ができるのか、メカニズムは解明されていないらしい。トレッキング中の私はついつい足を止め、太陽の光を浴びて、美しく輝いているヒマラヤひだを眺める。「天使の首飾り」と言われているアマダブラム峰は、いつ見ても美しく、堂々としている。

 何十回もヒマラヤを訪れ、何十回も見た山だが、毎回、その荘厳さにハッとさせられる。

 ≪風の流れが変える山の表情≫

 ヒマラヤ登山を行う際に「快晴無風」を願うのは、登山家として当たり前だ。しかし、カメラを抱え、ヒマラヤの表情を求めてやってきた場合、別の世界を求める。風の流れは、ヒマラヤの表情を刻々と変化させていく。まるで生き物のように。

 エベレストの姿を求め、ゴーキョピーク(5360メートル)に登った。

 テントを張り、早朝に起床。テントの中は、氷に覆われているかのように寒い。そんな中、カメラを構え、朝日が昇ってくるのをじっと待っている。

 雲と朝日によって作り出されるグラデーションは、刻一刻と変化し、同じ表情は2度と現われない。無音の中で、何とも色っぽい空の表情を無我夢中で撮り続けた。

 気が付くと、体は冷え切り、シャッターを押す指の感覚さえ分からなくなっていた。

 ヒマラヤで感じる「風」を求めて、私は、また、ヒマラヤへ行く。(写真・文:アルピニスト 野口健/SANKEI EXPRESS

 ■のぐち・けん アルピニスト。1973年米国・ボストン生まれ。亜細亜大卒。植村直己の著書に感銘を受け、登山を始める。16歳でモンブランへの登頂を果たす。1999年、ネパール側からエベレスト(8848メートル)の登頂に成功、7大陸最高峰世界最年少登頂記録を25歳で樹立。以降、エベレストや富士山に散乱するごみ問題に着目して清掃登山を開始。2007年には中国側からエベレストの登頂に成功。近年は清掃活動に加え、地球温暖化による氷河の融解防止にむけた対策、日本兵の遺骨調査活動などにも力を入れている。今年7月には、初の写真集「野口健が見た世界 INTO the WORLD」が発売された。

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