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【底流】バイト大量離脱で崖っぷちのすき家 「パワーアップ改装中」いつまで?

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【底流】バイト大量離脱で崖っぷちのすき家 「パワーアップ改装中」いつまで?

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鍋メニューの提供がきっかけで、深刻な人材不足に陥ったすき家。ゼンショーHDの小川賢太郎会長兼社長は善後策を急ぐ(コラージュ)  ゼンショーホールディングス(HD)が運営する牛丼チェーン最大手「すき家」の苦境が続いている。「牛すき鍋定食」を発売した2月以降、アルバイト従業員の大量退職が生じ、人手不足による店舗休業はしばらく解消できない見通しだ。

 すき家は他の牛丼チェーンに比べ、少ない従業員で店舗を運営する手法により利益率を高め、年間最大200カ所超の積極出店で事業を拡大。国内外食チェーンとしては「マクドナルド」に次ぐ2000店達成を射程に収めていたが、快挙を目前に成長モデルの転換を迫られている。

 長引く「パワーアップ改装中」

 午後8時、東京都杉並区の京王井の頭線高井戸駅前。勤め帰りのサラリーマンらが、黄色にライトアップされた牛丼店「松屋」へと吸い込まれていく。だが、環八通りを挟んで斜め向かいに建つ「すき家」の明かりは消えたままだ。

 ゼンショーHDは「パワーアップ改装のため3月20日から休業中」と説明する。だが、店内で工事が行われている様子はうかがえない。同HDによると「改装中」の店は全1990店舗のうち137店舗(22日現在)にのぼる。都内の別店舗で働く男性従業員(24)は「人繰りがつかないために『改装』が長引いている店も多い」という。

 集まらない人手を、ゼンショーHD傘下の別チェーン「なか卯」からの融通でしのごうとしている-。同社は否定するが、今月中旬にはネットの掲示板にこんな書き込みもなされた。実際に男性従業員は「春以降の騒動で、自分も近隣店の応援に入る日が増えた」と打ち明ける。

 同HDによると、すき家は3月、人手不足を理由に営業を休止・短縮した店が一時123店舗に上った。4月以降は「採用が好転しつつある」(同社)という。それでも、人手不足による休業は6月末時点でなお30店舗残る見通しだ。一連の店舗休止により、平成27年3月期の連結営業損益は8億7000万円程度下ぶれする見通しだ。

 過酷な「ワンオペレーション」

 「お客さまに多大なご迷惑をかけ、申し訳なく思っている」

 ゼンショーHDの小川賢太郎会長兼社長は、今月14日の決算会見で陳謝した。

 「吉野家」など他の牛丼チェーンでは、1店舗に社員を含む2人以上の配置する。これに対しすき家は、アルバイト1人だけで1店舗を切り盛りする独自の運営手法「ワンオペレーション(ワンオペ)」を導入した。人件費を大幅に抑え、利益率を高める狙いだ。

 だが、注文から調理や配(はい)膳(ぜん)、会計、清掃までを1人で行うため、複数の客が訪れた場合、十分手が回らないケースも少なくない。さらに今年2月には吉野家に続き、すき家も鍋メニューを始めた。

 1食分ずつ小分けして保管する「牛すき鍋定食」は、大鍋で煮込む牛丼に比べ作業の負担が大きく、バイトの一斉退職を引き起こした。

 小川会長兼社長は「現場とトップの距離を縮め、意思疎通を図っていきたい」と反省の弁を述べた。

 ゼンショーはすき家事業を6月から全国7エリアの事業会社に分社化し、人員配置や採用などの権限を委譲する。「品川の本社から一元管理する態勢を抜本的に改める」(小川会長兼社長)ことで、地域に応じた人員配置や給与体系を設け、店舗運営のあり方を見直す考えだ。

 あわせて久保利英明弁護士を委員長とする第三者委員会も設置し、労働環境の改善を図る。小川会長兼社長「目の届かなかった点を明らかにし、問題を解決していきたい」という。

 成長市場踊り場

 ただ、人手不足はすき家だけの問題ではない。アルバイトなど非正規雇用が中心の外食・小売業では、人手不足が経営に影響を与える事態となっている。

 「われわれの成長戦略が曲がり角に来ている」

 居酒屋チェーンなどを運営するワタミの桑原豊社長は8日の決算発表会見で、こう打ち明けた。正社員やアルバイトの確保が難しくなったワタミは、26年度中に60店舗を閉鎖して1店舗当たりの従業員数を増やす施策を発表した。だが、4月に入社した社員は120人と目標の半分にとどまり、経営のあり方の見直しを迫られている。

 人材確保に向け、うどんチェーンのグルメ杵屋は、パートやアルバイトの5%に当たる約440人を7月ごろから正社員に切り替える。また、スターバックスコーヒージャパンは約800人の契約社員をすべて正社員とするなど、雇用のあり方も変化しはじめた。

 野村証券の繁村京一郎シニアアナリストは「外食産業は採用・退職のハードルが比較的低い。働きやすさを高めなければ人材争奪戦に勝てなくなる」と指摘する。人材確保は、経営の土台を揺るがしかねない喫緊の課題となっている。(山沢義徳)

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