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【底流】関電2原発、優先審査入りできず 自らの主張にこだわった理由

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【底流】関電2原発、優先審査入りできず 自らの主張にこだわった理由

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 昨年7月に始まった原子力規制委員会の安全審査が新局面を迎えている。3月中旬、九州電力の川内原子力発電所(鹿児島県)が「優先審査」の対象に選ばれ、6月末にも審査合格する見通しとなる一方、関西電力の大飯原発と高浜原発(ともに福井県)は外された。「関電は規制委の意向を素直に受け入れず、反感を買ったため」(業界関係者)とされるが、規制委を“敵”に回してまで自らの主張にこだわった最大の理由は、他電力に対する責任感だった。

 突出して高い依存度

 「今、原発は批判されることも多いですが、資源小国の日本には必要なんです」

 関電原子力事業本部の中堅幹部は熱く語る。

 関電の保有原発は福井県に3原発11基。東京電力福島第1原発事故前の平成22年度、関電の全発電量に占める原発の割合は50・9%と、電力各社の中でも突出して原発依存度が高く、テレビCMでも「関西の電気の約半分は原子力」とPRしていたほどだ。

 原発17基を保有していた東電が福島第1原発の全6基を廃炉したことで、関電社員には「原発を引っ張っていけるのは俺たちだ」という強い自負が芽生えていた。

 だが安全審査では、大飯の陸側に1つ、海側に2つある計3つの断層の動きをめぐって、規制委と関電の見解は終始、平行線をたどった。

 規制委は「3つの断層は同時に動くものとして基準地震動(最大規模の地震の揺れ)を考えるべきだ」と主張。これに対し、関電は「海と陸の断層距離は離れており、3連動の可能性は低い」と反論し続けた。

 関電がここまで抵抗したのは、規制委の島崎邦彦委員長代理の口ぶりが曖昧だったためだ。

 曖昧さを“誤解”

 「決定的なエビデンス(証拠)ではない」「まだ気になっている」「関西電力さんの見識による」…。

 島崎氏はこんな表現で、関電が示すデータを門前払いしてきた。婉曲な口ぶりを、判断が揺れつつあるためだと考えた原子力事業本部の担当者は「もう少しで納得してもらえそうや」と審査会合では熱を入れて説明した。

 だが、島崎氏は常にのらりくらりとかわした。最終的に関電は、「3連動しないことを100%証明できない」と根負けした。3連動の受け入れに伴って、大飯の基準地震動を従来の700ガル(ガルは揺れの強さを表す単位)から759ガルへ引き上げた。

 震源の深さに関しても双方の溝は埋まらなかった。

 関電は、大飯の周辺について最も浅い震源は4キロが妥当と説明。しかし、規制委は「3キロが妥当」と、より浅く見積もって検討するよう求めた。

 震源が浅いほど大きな揺れが伝わりやすく、より大きな揺れの想定を要求される。基準地震動をさらに引き上げれば、配管などの補強工事が必要となり、再稼働が大幅に遅れる可能性も出てくる。

 島崎氏は「僕が3キロじゃないかと思っているものを否定してくれればいい。データを示してくれれば納得する」と提案した。関電は必死にデータを示し続けたが、島崎氏は最後まで首を縦に振らなかった。

 審査会合は、立証責任をすべて電力会社が負う仕組みだが、完璧に証明するのは不可能に近い。結局、関電は3月12日に3・3キロに見直したが、規制委は判断を保留した。

 「丸のみ」を優先

 これに対し、九電は3月5日、規制委の指摘に従って川内の基準地震動を申請時の540ガルから620ガルまで一気に引き上げた。

 「ちょっと乱暴なところもあるが、エイヤッと大きくしてみました」

 この「物わかりの良さ」(他電力の幹部)が規制委の信頼を勝ち取る結果につながり、川内の優先審査入りが決まった。

 しかし、九電の思い切った判断で、基準地震動のハードルは大きく跳ね上がった。審査中の各社の原発は新鋭機ばかりだが、「(未申請の)古い原発の合格はほぼ不可能となり、巨額の補強工事が必要になる」(大手電力幹部)との恨み節もささやかれる。

 関電は、八木誠社長が業界団体である電気事業連合会の会長を引き受けていることもあり、「他社に迷惑を掛ける判断は軽々しくできない」という意識が働いたようだ。

 3月末、関電の幹部は悔しさをにじませながら、こうつぶやいた。

 「結局、規制委の主観を丸のみしなければ前に進めない。これが本当に科学的議論といえるのか」

 だが、優先審査入りできず「反省すべき点はある」(関電幹部)のも事実だ。一日も早く審査を終えるため、関電には、規制委の顔を立てる“腹芸”も求められそうだ。(藤原章裕)

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