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【底流】国内勢と海外勢が火花 M&A助言で競う証券業界 

ニュースカテゴリ:企業の金融

【底流】国内勢と海外勢が火花 M&A助言で競う証券業界 

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経営統合で会見する東京エレクトロンの東哲郎会長兼社長(左)。M&Aをめぐる助言会社の競争も激化している=コラージュ、写真はロイター  企業がM&A(合併・買収)を行う際、財務面などの助言を行う「M&A助言・仲介業務」をめぐり、業界内の競争が激化している。国内ではこれまで、証券最大手の野村ホールディングスが圧倒的な強さを誇ってきた。だが、平成25年に三菱UFJモルガン・スタンレー証券がトップに躍り出て、今年の大型案件のサントリーホールディングスによる米ビーム社買収にも名前を連ねるなど好調だ。国境を越えたM&Aは今後も増える見通しで、各社は事業強化を急いでいる。

 ■“米国勢”が上位 

 1月13日に発表されたサントリーの大型買収で、証券業界にも衝撃が広がった。多額の手数料が得られる巨額のM&Aで、サントリー側のアドバイザーを務めたのが三菱モルガンだったからだ。三菱UFJフィナンシャル・グループとモルガン・スタンレーという日米の金融大手が22年に合弁で設立した同社は、今年の受注競争で早くも優位に立った形だ。

 こうした業界の趨(すう)勢(せい)は、米金融情報会社、トムソン・ロイターなどが集計する「リーグテーブル」で一目瞭然だ。証券会社が関わったM&Aの金額を合計した順位によると、25年の日本企業関連(不動産案件を除く)では三菱モルガンが2位の米ゴールドマン・サックスに1兆円以上の差をつけた。

 前年首位のみずほフィナンシャルグループは6位、23年まで5年連続首位だった野村は3位にとどまり、“米国勢”が優位にある。独立系証券の幹部は「巨額の金が動く大型案件ではそれに見合った資金が必要になる。融資ができる銀行系グループは有利だ」と指摘する。

 実際、サントリーは今回の買収資金にあたる約1兆4千億円を、三菱東京UFJ銀行からのつなぎ融資で手当てする。関係者は「米国に強いモルガンと、銀行の融資、両方が寄与したようだ」と指摘する。

 ■海外情報に強み

 勝ち組同士の合従連衡として大きな注目を浴びた、半導体製造装置で首位の米アプライドマテリアルズと世界3位の東京エレクトロンの経営統合でも、三菱モルガンは東京エレクトロン側のアドバイザーに選ばれた。同社の東哲郎会長兼社長は統合会見で、「日米のリーディングカンパニーが一緒になって、コスト削減効果を出すことがベストだと思った」と強調した。

 三菱モルガンはこのほか、住宅設備国内最大手LIXIL(リクシル)グループによる独グローエの買収などの大型案件も手がけている。

 25年の躍進について、三菱モルガンの別所賢作M&Aアドバイザリー・グループ統括責任者は「国内の三菱UFJのネットワークと、海外のモルガン・スタンレーの知見を生かした相互作用が功を奏している」と強調した。

 一方、野村は25年の国内企業同士の大型案件で「ほぼ全勝」(同社)だったものの、海外企業が絡む案件では苦戦した。東京エレクトロンの案件では、昭和55年の新規株式上場(IPO)で主幹事だった有利な立場を生かせなかった。

 ただ、金融調査会社ディールロジックが推計した平成25年の日本企業関連の助言業務手数料収入では、野村が首位だ。収益力を含めた優位性は健在のようだ。

 ■奪還へ巻き返し 

 野村は、米大手投資銀行グループのリーマン・ブラザーズ(20年9月に経営破綻)の欧州部門などを買収しており、M&A助言部門で「グローバルレベルの情報収集力や提案力が向上している」(野村証券の角田慎介企業情報部長)という。さらに、担当する人員の強化を継続し、巻き返しをはかっている。

 足元では、安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」による急激な円安が進んでいる。だが、日本企業のM&Aへの意欲はむしろ高まる。国内の人口減少から「内需縮小は不可避という強い危機感を持つ企業が海外企業買収に成長の可能性を見いだしている」(大手証券)からだ。

 一方、円安で海外企業による日本企業へのM&Aも活発化する可能性がある。政府は成長戦略の一環として、32年までに対内直接投資残高を現在の2倍の35兆円に増やす目標を掲げる。外国勢が国内企業への投資を増やせば、雇用の拡大につながる見通しだ。

 国境を越えた大型M&Aの増加は、日本経済に活力をもたらす。助言業務をめぐる競争は、日本経済のグローバル化に向けた足どりの確かさを示している。(佐藤裕介)

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