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【底流】成否を分けた過去との決別 ジャパンディスプレイとルネサス事業再生

ニュースカテゴリ:企業の電機

【底流】成否を分けた過去との決別 ジャパンディスプレイとルネサス事業再生

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 政府系ファンドの産業革新機構の支援先企業が明暗が分けている。中小型液晶パネル製造のジャパンディスプレイ(JDI)は3月、東京証券取引所1部に上場する一方で、半導体製造のルネサスエレクトロニクスは経営再建が遅れている。ともに複数の電機大手から切り出した事業を統合再編した企業だが、成否を分けたのは、過去と決別する“覚悟”の違いだ。

 ■3社統合に成功

 「過去の例を見ても3社統合は絶対にうまくいかないといわれていた。統合そのものが難関だった」

 3月19日に東証で上場セレモニーを行った後の会見で、JDIの大塚周一社長は、達成感にあふれた表情でこう語った。

 JDIは平成24年4月に日立製作所と東芝、ソニーの中小型液晶パネル事業を統合し設立された。装置産業の液晶事業が激しい国際競争に打ち勝つには、巨額の設備投資が必要だ。だが、統合前の3社は高い技術を持ちながら、単独では大型の設備投資が困難だった。

 グローバル競争に不可欠な設備の再編と戦略的な投資ができる態勢を求めて、3社の若手エンジニアらが、革新機構に助けを求め駆け込んだのが発端だ。

 高精細な液晶技術に加え、革新機構からの出資2000億円でパナソニックから茂原工場を取得し、増産体制を整備した。スマートフォン(高機能携帯電話)やタブレット端末の普及も追い風となり、統合後の25年3月期に黒字に転じた。  

 ■ルネサスの反省

 今回の上場で革新機構は保有株4億株のうち、1億8600万株を売却。公開価格で1674億円を回収し、同機構の再生案件としては初めての成功事例となった。革新機構の小宮義則専務執行役員は「大塚社長のリーダーシップと親会社にとらわれない経営ができた点が成功の要因だ」と話す。

 実は革新機構は、JDIの事業統合について、過去の反省を踏まえて進めた。そこで“悪い手本”としたのがルネサスの事業統合だという。

 ルネサスは日立と三菱電機の半導体事業を統合した前身会社にNECエレクトロニクスが加わり22年4月に発足した。電機大手を母体とする成り立ちはJDIと似ているが、小宮専務は「これまで3社がいがみ合い、ガバナンスが働いていなかった」と切り捨てる。

 役員人事はすべて3社のたすき掛け。人員などの合理化も大きな課題だったが、役員がそれぞれの出身母体の工場を守り、構造改革は進まない。統合後も赤字が続いた。

 革新機構はルネサスと同じ轍(てつ)を踏まないため、JDIの設立時に幹部から母体3社の出身者を排除した。エルピーダメモリを退いたばかりの大塚氏を招き、下に9人の執行役員を横並びで配した。この効果で、工場の設立や新商品の投入など大胆な施策を迅速に打ち出せたという。

 さらに社員の意識改革も徹底した。大塚社長は「設立時の“憲法”の主語は旧3社ではなくJDIだ。過去は捨てろ」と言い続けた。統合前の時点で約1400人の正社員を削減するなど合理化も徹底した。経産省の幹部は、事業再生の速さの理由を「統合前に合理化を進めたのも大きい」と指摘した。

 ■ラストチャンス

 そのルネサスも、遅まきながら変化の兆しが出てきた。24年12月に革新機構やトヨタ自動車など8社が約1500億円の出資を決定し、昨年6月にはオムロン会長だった作田久男氏を会長兼CEO(最高経営責任者)に送り込んだ。

 作田会長はまず役員数を減らし、経営の意思決定を迅速化したほか、大規模な組織再編も実施した。今年3月には山形県の鶴岡工場をソニーに売却し、4月1日には半導体の前工程と後工程の工場を2社に集約するなど、生産拠点の再編も進めた。

 ただ、柴田英利最高財務責任者(CFO)は「まだスリム化が必要」とさらなる合理化も示唆する。27年度末までに5400人を削減する方針だ。

 だが、組合の幹部は「26年3月期の営業利益が大幅に黒字に転じるのにこれ以上の人員削減は許されない」と強く反発する。同社はピーク時で4万8000人の従業員がいたが、直近は2万8500人に減った。度重なるリストラで社員の士気も落ちているという。

 だが、ルネサスの再建には国費を投入しているだけに革新機構や現経営陣は、失敗が許されない。JDIのように成功を果たすには、大きな痛みに耐えて必ず再建を果たすという強い覚悟が必要だ。(黄金崎元)

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